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材料力学から始まる変形理論 -2-
材料力学を起点とした変形理論に関する連載記事。物理的な「変形」にまつわる理論を深掘りします。
前回は材料力学の概念と変形の基本的な考え方について話をしました。変形は引張・圧縮・せん断・曲げ・ねじりの5つに区別されるのでした。
今回は変形の基本的な過程である「弾性変形」と「塑性変形」を切り口にして、変形理論のイメージを具体化させていきます。
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応力とひずみの関係 〜弾性変形〜
材料力学では変形を関連付けるための基本的な物理量として「応力」と「ひずみ」があります。両者の間には一定の関係(構成式)が存在しますが、代表的な構成式のひとつに「フックの法則」があります。
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フックの法則と書くと「ばねの伸びが加えた力に比例する」ということを想像する方も多いと思います。それをそのまま材料力学に反映させていて、変形(ひずみ)は内力(応力)に比例するというものです。
このような変形を「弾性変形」と言います。どんな材料にも弾性領域は存在します。ここでの重要なポイントのひとつに、応力が解放されたらひずみは元の状態に戻るという性質があります(可逆性と呼びます)。
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弾性変形の特性を決めるところとして、ヤング率という材料定数があります。材料の硬さを表すもので、応力とひずみをグラフ化したときの比例定数(傾き)に相当します。
今回は単純な引張力を例にしていますが、圧縮力やせん断力でも同様のことが言えます。
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応力とひずみの関係 〜塑性変形〜
弾性変形が進行すると、あるところで可逆性に限界が来ます。つまり、応力を解放しても元の形状に戻らないということです。この境界点を「降伏点」と呼び、降伏点から先の変形を「塑性変形」と言います。
塑性変形は弾性領域での線形の関係とは異なり、材料特有の非線形の関係になります。例えば、軟鋼は降伏時に一時的な応力低下を引き起こすなど、単純な数式では表せないところがあります。
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塑性領域の変形は「硬化則」に支配されます。これらは非線形の挙動を示すので、解析的に解くことは難しいです。数値解析では増分計算という方法を用いることが多いです。
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塑性変形の素過程の観察
塑性変形が発生するまでの話に触れます。塑性変形は応力を解放しても元の形状に戻らない、不可逆的な変形だと書きました。そこには変形時の原子レベルの運動に秘密があるのです。
一般的に固体の物質は構成原子が規則正しく配列された状態にあります。しかし、実際は原子配列に必要な原子が不足したり、不要な原子が侵入したりなど、不規則な部分が存在します。
原子配列に不完全性が生じている部分のことを「格子欠陥」と言います。この格子欠陥が塑性変形をもたらす重要な発生源になります。
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格子欠陥が線状に並んだものを「転位」と言います。転位は塑性変形の大もとに当たる存在で、これが自由に移動することで塑性変形が発生します。
塑性変形は具体的に原子配列にズレが生じることを意味します。実際に原子配列がズレるにはある程度のエネルギー(内力)が必要で、それを満たさない場合は原子配列は元の状態に戻ろうとします。
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上記の現象は「すべり」と呼ばれています。原子群のいたる所ですべりが発生することで、塑性変形が進行するのです。
例えば金属で多く見られますが、塑性変形の痕跡のひとつに「リューダース帯」と呼ばれる線状の損傷などがあります。
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おわりに
今回は変形に関して「弾性変形」と「塑性変形」に区別して、具体的な話に踏み込んでみました。
特に塑性変形という不可逆的な現象は、原子レベルの話を持ち出すことで、初めて理解が進むのではないかと思います。
塑性変形の大もとである「転位」については、目視で観測できないレベルの存在ではありますが、これが複雑に運動することで硬化則の意味も説明できるため、何かと重要な概念ではあります。
ところで、私たちはどのようにして物体の変形過程を定量的に観察するのでしょうか。次回はその辺の話を中心に進めることにします。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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