圧縮性流体における物理を知ること -1-
流体とは物質の三態における「液体」と「気体」を総称した表現です。これらは基本的に「連続体」と呼ばれる概念を持ち、各所の微視的構造に由来して密度や流速などの物理量を伴います。
流体の力学的性質(特性)を理解するために必要な学問を「流体力学」と言います。流体力学は固体力学と同じく「連続方程式」と「運動方程式」と「エネルギー方程式」という関係式が存在します。
流体は理想形態として完全流体(理想流体)や粘性流体、圧縮性流体(逆説として非圧縮性流体)が存在します。前回は主に完全流体に注目して、様々な物理現象を見てきました。
今回は「圧縮性流体」に関する様々な物理を見ていくことにします。圧縮性流体は運動に伴う流体の圧縮や膨張を考慮します。変形を考慮するため、非圧縮性流体に比べると、難易度が高いです。
音波に関する流体的性質
現実の流体は、流れ場において圧縮や膨張などの変形を伴います。そして、変形に起因する密度変化は波(密度波)として流体中を伝播します。
密度波の伝播速度は流体の圧縮率の平方根に反比例します。すなわち、密度波の伝播速度が無限大の極限を取るとき、これまで扱われてきた「非圧縮性流体」と同義となります。逆に、流体の代表速度が密度波の伝播速度と同程度(以上)であるとき、圧縮性流体の性質が顕著になります。
圧縮性の影響を確認するために、粘性を無視する仮定を設けます。このとき、連続方程式と運動方程式は次の通りです。
$${\frac{D\rho}{Dt}+{\rho}{\,}\textrm{div}\bm{u}=0}$$
$${\frac{D\bm{u}}{Dt}+\frac{1}{\rho}\textrm{grad}{\,}p=0}$$
エネルギーについては、初期状態でエントロピーが一様であるならば、エントロピーは何処でも一定条件を満たすことから、圧力は密度に対する関数と言えます。これらは「圧縮性完全流体」に対する基礎方程式になります。
圧縮性流体(初期状態)に微小変動を加えて、微小変動に関する2次の項を無視するならば、次の波動方程式が導かれます。
$${\frac{\partial^2 \rho}{\partial t^2}-{a_0}^2\Delta\rho=0}$$ , $${a_0=\sqrt{\Bigl(\frac{dp}{d\rho}\Bigr)_0}}$$
ここで、ゼロの添字を付けた変数(a)は密度波の伝播速度を表します。この密度波を「音波」と言います。速度ベクトルと密度勾配は方向が一致しますので、密度波は縦波の性質を伴うと言えます。
圧縮性流体の有限振幅波
流体の粘性と熱伝導性を無視して、密度波を1次元の平面波と仮定します。このときの連続方程式と運動方程式は、次の通りです。
$${\frac{\partial \rho}{\partial t}+u\frac{\partial \rho}{\partial x}+\rho\frac{\partial u}{\partial x}=0}$$
$${\frac{\partial u}{\partial t}+u\frac{\partial u}{\partial x}+\frac{a^2}{\rho}\frac{\partial \rho}{\partial x}=0}$$
今回は変動が微小ではない場合を考えます。
ここで、位置(x)と時間(t)における圧力と密度に対する音速を次のように規定します。
$${a=\sqrt{\Bigl(\frac{dp}{d\rho}\Bigr)_S}=\sqrt{\frac{{\gamma}p}{\rho}}=\sqrt{\gamma{RT}}}$$
ここで、静止状態に対する物理量(添字にゼロを付けています)と、前述の状況下での物理量の関係として、次のことが分かります。
$${a=a_0\Bigl(\frac{\rho}{\rho_0}\Bigr)^{\frac{\gamma-1}{2}}}$$
この条件は原則的に理想気体を前提とします。
前述で示した連続方程式と運動方程式を次の変数で置き換えます。
$${r=\frac{a}{\gamma-1}+\frac{u}{2}}$$ , $${s=\frac{a}{\gamma-1}-\frac{u}{2}}$$
これらは「Riemannの不変量」と呼ばれます。
$${\frac{\partial r}{\partial t}+(u+a)\frac{\partial r}{\partial x}=0}$$
$${\frac{\partial s}{\partial t}+(u-a)\frac{\partial s}{\partial x}=0}$$
一様な静止流体に向かって進行する密度波を考えます。変数(x)の負値(象限)を流体の初期配置として、密度波の占める伝播速度を示します。
$${a=a_0+\frac{\gamma-1}{2}u}$$
この領域では、速度の変数(aとu)がそれぞれ単独で一定値を取る。このような波を「有限振幅の進行波」と言います。
先述の音波の場合とは異なり、進行速度は波の部分に応じて差異が生じます。流体の速度(u)が大きい場所では波の伝播速度も大きく、流体の速度が小さい場所では波の伝播速度も小さいです。
流体の速度(u)の波形は、正勾配を取る膨張領域では時間経過に対して緩やかになり、負勾配を取る圧縮領域では急峻になります。
おわりに
今回より、圧縮性流体に関する物理を見ていくことにします。引き続きよろしくお願いします。
初回では圧縮性流体の代表例のひとつとして、音波の考え方を示しました。もうひとつの圧縮性流体の代表例として衝撃波があります。次回は衝撃波に関して、様々な観点から物理を確認していきたいと思います。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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