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【読書記録】vol.1|有吉佐和子『恍惚の人』

記念すべき初回は、最近読んだ作品の中で最も印象に残っている、有吉佐和子『恍惚の人』を記録します。

高齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない≪老い≫の問題に光を投げかける。空前の大ベストセラーとなった傑作長編。

有吉佐和子『恍惚の人』、新潮文庫、あらすじより

【あらすじ】
ある日、義父母の家へ向かった昭子は姑が倒れているのを発見した。神経質で陰湿な性格をした舅の茂造は、同居しているにもかかわらず、妻の死に気づいていなかった。話をしても上手くかみ合わず、異常なほど食へ執着する茂造の姿に、昭子たちは違和感を覚えるようになる。認知症になった茂造によって、家族の歯車が少しずつ嚙み合わなくなっていく。

【感想】
文章のパワーがとにかく強いです。言葉にできない、胸を渦巻くドロドロとした気持ちが完璧に言語化されています。記憶に残したい部分に付箋を貼るのですが、あっという間に付箋だらけになりました。「リアル」を抉り抜いていて、頭を強く揺さぶられるような文章に溢れています。この作品で興味深いのは、心優しい老人が認知症を境に変わってしまったという展開とは全くの逆であることです。この茂造という男は、偏狭で誰に対しても不親切であり、周囲から好まれる人物ではありませんでした。そんな人間を「介護」しなければならない状況。風呂の世話、排泄の介助、夜泣き、徘徊。その介護の先には「死」があります。茂造を通じて昭子と夫の信利が自分たちの死を連想しているのも、胸に迫るものがありました。

【印象的な文章】

面白味に全く欠けた人生だ。何が楽しくて今日まで生きてきたのだろう。息子も愛さず、妻も愛さず、嫁はいびりぬいて、孫も可愛がらず、自分の胃腸の具合ばかり気にした揚げ句が呆けてしまった。暴漢が入った、警察を呼べと毎晩恐怖の叫びをあげるようになったのは、いったい彼の人生の何を象徴するのだろう。

本文p.240

出版されたのは1972年と約50年以上前の作品ですが、高齢化が進み、益々「介護」が身近になった現在において読む価値は非常にあると思います。
まだ読んだことがない方は、ぜひ調べてみてください!

読んでいただきありがとうございました😊




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