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『紫の砂漠』って知ってる?

こんにちは。

みなさん、『紫の砂漠』って知っていますか?

紫色の砂漠のこと?
世界のどこかにそんな場所あるの?

そんなふうに思ったかもしれません。



実はこれ、「本のタイトル」なんです。

遥かかなたの地平線まで、鷹揚に風の紋を刻んでただただ広がる紫の砂漠(デゼール・ヴィオレ)。何かが呼んでいるー
砂漠の果てに生まれ、砂漠とともに過ごし、砂漠に強く心惹かれるシェプシは、神の領域であり、禁域とされている紫の砂漠への思いを募らせる。四つの月を持ち、「真実の恋」によって男女の性差が決定するこの星で、シェプシの冒険がいまはじまる。
芥川賞作家・松村栄子がおくるファンタジーノベル。

解説・高原英理

わたしが持っている本は、「2000年10月18日第一刷発行」
もう20年以上前の本です。

当時中学生だったわたしは、朝の読書の時間用に何気なく本屋で手に取り購入しました。
その後大学で一人暮らしを始め、就職してから何回か引越しを繰り返すうちに持っていた本はどんどん減っていきました。
いまでは購入する本はほぼ電子書籍です。

そんななか、ずっと何十年も手元に残っているのがこの本です。


2冊とも長い付き合いです


何がそんなに好きなのか。
例えばストーリーなのか、キャラクターなのか。

漫画やアニメのように、いわゆる推しキャラがいるわけでもない。


なにが好きかって言われたら、やっぱり「紫の砂漠」なんですよね。


タイトルにもなっている「紫の砂漠」と、それを描写する繊細な言葉遣いや表現、世界観にすごく惹きつけられるんです。

主人公のシェプシがあまりに砂漠に心惹かれるので、いつの間にか自分も同調してしまった、という部分もあると思います。

加えて、小説を買った当時はまだインターネットもあまり普及していない時代。
何度も頭の中で、「こんな光景だろうか」と一人空想に耽っていました。
アニメ化や実写化していないからこそ、考える余地が残っていたんということでしょうか。

詩人の詩

本のなかでは詩人の歌う「詩」がいくつか出てくるんですが、これがとても印象的でわたしは好きです。

特に好きなのはこの2つ。
一部だけ引用します。

あなたを探して旅に出た
遠い昔の子供たち
あなたの影を追い求め
あなたの匂いを嗅ぎたくて
彼らはあなたに会えただろうか
言葉を知らずただ見る神よ

紫の砂漠(P100ー101)  

月の光は銀の粒
ちらちら降って人を刺す
月の光は銀の粒
ちらちら降って地に降りつむ
蒼さが瞳に触れたなら
掌で覆って隠すこと
光に埋もれて凍てつく前に
怒りに触れて消え去る前に

紫の砂漠(P122ー123)

これは歌の一部なんですが、ぜひ本で通して読んでほしい部分です。
言葉の響きや語感が素敵で、繰り返し読みたくなります。

このなんとも言えない寂寥感というか、美しいのに冷たくてどこか影がある感じが本の世界観を集約していると思います。

実は前の記事で書いた「Audible」でこの歌の朗読が聴けるかも、と検索してみたんですが、残念ながらラインナップにありませんでした。


そしていま、改めて考察してみると自分の「癖」が集約されていた

これはあれです。

当時は無意識だったかもしれないけど、改めて考えてみると「昔からこういうの好きだったんだなー」というポイントがいくつかありました。

たぶん、これに共感できちゃう人はこの本もきっと好きそう。
ポイントはざっくり3つ。

ポイント① 未知への憧れ

主人公のシェプシは神の領域で、禁域とされる砂漠に心惹かれる変わり者です。
砂漠には一体なにがあるのか?
大人や周囲がなんと言おうと、その憧れはとめられない。

読者としても未知の存在やものって気になりますよね。
薄々その先にあるのは幸せとか、明るいものばかりじゃないと思いつつもついつい惹かれてしまいます。

そして現在、連載中の漫画で未知への憧れといえばこれです。

「メイドインアビス」

これも語れば長くなるので詳しい内容は割愛で。
主人公のリコが、不可思議に満ちた秘境の大穴「アビス」に挑む物語。

先日発売の最新刊(13巻)でだいぶアビスの「謎」には近付いてきました。
知りたい。
でもこのワクワクを終わらせてほしくない、というジレンマに苛まれ中です。

この2冊の共通点。
未知への憧れと心湧き立つ冒険かと思いつつ、どこか仄暗い部分もあるストーリー。
(よく考えるとアビスも腐海っぽい植物や王蟲のような未知の生き物もいる)

このギャップがたまりません。


ポイント② 漫画版「ナウシカ」や、NHK みんなのうた「月のワルツ」に通じる世界観

これもね、どちらも好きなんです。

「ナウシカ」に関しては、王蟲や腐海もある意味「未知への憧れ」のような部分があるともいえるし。

また、小説の続編「詩人の夢」ではシェプシも大人になり、世界に関わるような争いの話も出てきます。

そのあたりがなんとなくナウシカっぽいというか。
真似しているとかではなく、この二つの世界はこの地球とは違う次元の話だけど、この地球とは違うってだけでこの二つは案外同じ次元にいてもおかしくないかも、みたいな感じ。
お隣さん的な。そんな親近感があると思う。


続いて「月のワルツ」

これは脳内でイメージした時に、どちらも「昼間の太陽が照りつける熱い砂漠」じゃないんですよね。

「月が照らしている夜の砂漠」

なので、たまにテレビなんかで「月のワルツ」を聞くと、自動的に小説のことも思い出していました。
そして、書いていて思い出したんですが、子どもの頃に車の中でよく松任谷由美さんの歌が流れていて。
わたしは「砂の惑星」という曲が好きで、耳に残って印象的だった記憶があります。

これもどこかひっそりして、明るい曲でもない。
でも、自分が惹かれるのは昔から「月」と「砂漠」の組み合わせなんだと再認識しました。


ポイント③ 「真実の恋」と「オメガバース」

シェプシの世界では生まれた時には性別がなく、「真実の恋」に出会うとお互いの性が分かれます。

これは究極の「運命の相手」であり、初対面であろうと恋に出会ってしまった時点で2人は将来的に夫婦となり、生涯を共にします。

一方で、「オメガバース」では一応性別が決まっていますが、「運命の番(つがい)」という遺伝子や魂レベルで惹かれ合う相手がいます。

これって結構似てますよね。

世界にただ1人の「運命の相手」が存在する。

読む分には非常にロマンチックで、紆余曲折ありながらも結局はお互いに離れられない…みたいな葛藤も含めて大好物です。

現実にあるとするなら、シンプルに面倒くさくなくていい。
あまり恋とか愛とかわからないし、そもそもそこまで発展するための最初のコミュニケーション能力がない。
ドキドキよりも心の平穏が欲しい。感情を揺らしたくない。

そんな人間なので、最初から「唯一の相手」だとわかっていれば恋だの浮気だのなくていいのに、と思ってしまいます。

そういう意味では、昔からある意味「理想」なんですよね。


以上、自分の「癖」が集約されていたポイントです。

上記で紹介したポイントって、後々人気が出たり、いまでもときどき話題に上がったりと、多くの人の心に刺さっていると思います。

つまり「紫の砂漠」って、実は多くの人が楽しめるのでは?

いまでは異世界ものも飽和するくらい当たり前で、すんなり設定も受け入れられるでしょう。


読んで欲しい気持ちと、このままひっそりと心の名作でいて欲しい気持ちもありつつ。
なかなか「読んだことある!」という人に出会ったことがないので、息抜きがてら記事にしてみました。

そろそろ読書の秋。

秋の夜長に、ぜひおすすめしたい一冊です。

【余談】
別にすごく読書家というわけではないし、読んだ本も多いわけではないと思う。
でも、いろいろ思い返して記事にするのは楽しかった。
noteかはわからないけど、何かの媒体で「自分の本棚」みたいなものを作ろうか思案中。
おすすめとかではなく、予算とかスペースが許せば自分がおきたい本を集める。
人の本棚って案外興味深いと思う。笑

続編の「詩人の夢」
一応リンクは貼っているけど、もう中古しか扱ってないみたいです。


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