【地中海ひとり旅】赤い服を着た少年
「ねえ、どこから来たの?」
赤い服を着た少年は、少し訛りのあるフランス語で、わたしに話しかけてきました。首を傾げるわたしを見て、「ああ、このアジア人はフランス語をそれほど理解できないのだろう」と悟ったのか、これまた訛りのある英語で、「どこから来たのってば?」と再度わたしに尋ねます。
「日本、日本っていう、東アジアにある国だよ。」
少年がわたしの言ったことを理解したのかはわかりませんが、いいえ、きっと日本という国のことを理解していなかったのだと思いますが、そんなことはどうでもよかったのか、狭い路地をぐねぐねと歩き回りながら、少年はこう続けました。
「今日、お父さんの言いつけを破って、ここまできたんだ。この街に来れば、たくさんの外国人と出会えるって、先生が言っていたから」
少年のお父さんが少年に何を言いつけたのか、少年の先生はこの街についてどう語ったのかは分かりませんが、きっとそうしてわたしと出会ったことを後悔してほしくなくて、わたしは、少年との会話を試みます。
「ねえ、写真撮らせて欲しいな」
「いいよ。だけど、僕が歩いている姿を撮ってよ。この街を歩いた記念にしたいんだ」
少年と出会って10分くらい会話した後の、彼との別れ際のやり取りは、こんな感じだったと記憶しています。どういう記念なのかは、やはりわたしには分かりませんでしたが、なるほど、確かにこの白壁の建物が軒を連ねるこの街では、少年の赤い服がひと際目立ちます。
地中海ひとり旅日記より抜粋
in Sidi Bou Said, Tunisia Feb.2024