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旅日記まとめ。

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世界中を旅しながら、写真を撮って、そして旅日記を書いています。「人生は旅だ」と、いつかどこかで耳にしましたが、その言葉は本当なのでしょうか。実際に旅をして、確かめたいと思います。…
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記事一覧

【台湾ひとり旅】ただの一度も、

【台湾ひとり旅】ただの一度も、

 ピタリと背筋を伸ばして立ち、ただの一点を見つめては、表情ひとつ変えず。なにかを「護る」人の美しさというものは、ただただ立ち尽くすというその立ち振る舞いや静寂さからでも、きちんと感じ取ることができるものなのだと、感心したことを覚えています。

 彼もまた人間で、そして感情のある生き物なのだと理解できたのは、彼の穏やかな"まばたき"からでした。長いまつ毛が上から下へとゆっくり動き、そしてまた下から上

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【台湾ひとり旅】手の付けられていない料理

【台湾ひとり旅】手の付けられていない料理

 わたしがこのレストランの入口で並んで待っているおよそ15分のあいだ、たしかに、あの料理は誰の手も付けられませんでした。

 一番奥の、端っこの席に、銀色のお皿に盛られたその料理について、入口からの距離では名前など分かりませんでしたが(いやら、近くで見ても分からなかっただろうと思いますが)、窓からの光に照らされ立つ湯気からは、きっと美味しいであろうことは予想できて、「わたしも席に着いたらあの料理を

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【台湾ひとり旅】あのまなざしは

【台湾ひとり旅】あのまなざしは

 「おはようございます、何をされているのですか?」と英語で話をかけてみましたが、こちらを見るなりすぐ下を向いて、おばあちゃんは自身の作業に戻ってしまいました。"おばあちゃん"というには、手先はとてもしなやかで肌艶は上品さを保っていて、しかしそれでもおばあちゃんと呼んでいるのは、これまでいったいどれだけの喜怒哀楽を重ねてきたのだろうと想像させる、あの強く、しかし優しいまなざしのせいかもしれません。

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【台湾ひとり旅】またどこかで。

【台湾ひとり旅】またどこかで。

またどこかで。

 あの飛行機はどこから来たのだろう、あるいはあの飛行機は、どこへ行くのだろう。搭乗から離陸までに思うことは、ただひたすら、目に入る飛行機の行方。

 右ひじをひじ掛けにつけてあごを手に乗せて、小さくて少し汚れた窓から外を眺めて。ターミナル2は忙しなく、行き交う飛行機を目で追っては、「さようなら、またどこかで。」って、心の中で別れを告げます。

 ひとり旅は始まったばかりなの

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【地中海ひとり旅】イムディーナの小さな旧市街

【地中海ひとり旅】イムディーナの小さな旧市街

 あれ、さっきもこの道通ったような・・・

 イムディーナの小さな旧市街の路地で道に迷ったと確信したのは、向こうから歩いてくる老夫婦と、5度目の再会を果たした時でした。5度というのは、およそ今日だけの話。一度目はたしか旧市街の入り口の橋で、二度目は聖パウロ大聖堂の前だったかな。三度目からは覚えていません。だってわたしは、いま自身がどこにいるのか分からないのですから。仕方ないと思います。だってこの街

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【地中海ひとり旅】カルタゴの活気

【地中海ひとり旅】カルタゴの活気

 これまでのひとり旅において、これほどまでに「危険」とか「物騒」という言葉の似合う瞬間には、なかなか出くわさなかったと思います。"瞬間"というには、1時間ちょっとの鉄路は長く遠いものではあるのですが、"あっという間"という表現を書く際のペンが気持ちよく旅日記帳をすべるにつけ、やはりそれは、瞬間の出来事でした。

 空調の効かない蒸し暑い車内からわたしを救おうとせんのは、皮肉にも、ガラスの割れた窓と

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【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-c 『心地よさの確認として』

【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-c 『心地よさの確認として』

 ブラーノ島に到着したわたしは、まずひと通りこの島を歩くことにしました。ひと通りといっても、30分もあれば一周できてしまう大きさの島であることは分かっていましたから、大したことではありません。リュックからコンパクトフィルムカメラを取り出して、あと、昨日寝台特急でもらったお水も。

 ブラーノ島を訪れることは、実はわたしにとって「旅」とは言えません。どちらかというと、旅の間の「小休憩」とも言えるでし

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【地中海ひとり旅】C-84ゲート

【地中海ひとり旅】C-84ゲート

 ハマド国際空港のC-84ゲートは、この空港のほかのゲートとは明らかに異なる独特な雰囲気に包まれていました。中東によくみられる煌びやかな内装の空港であるということには間違いないのですが、ゲート付近のベンチに座る家族、電光掲示板のそばで電話をするビジネスマン、そしてこの一角を走り回る子どもたちのどれをとっても、やはり、ほかのゲートとは何かが違います。

 このブロックにいる人々の民族的な、あるいは文

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【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-b 『ふたりのヴェネチアン』

【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-b 『ふたりのヴェネチアン』

 自惚れているかもしれないけれど、間違いなく、5度目のヴェネチアはわたしを歓迎してくれているのだと思います。寝台特急がヴェネチア・サンタ・ルチア駅に定刻どおり到着したことも予想外でしたが、まさにいま日が出ようとせんばかりの頃に、カナルグランデを一望できるスカルツィ橋の真ん中に立つことができたのですから、寝台個室の硬いマットレスに文句を言っている場合ではありませんでした。

 カメラのダイヤルをカチ

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【欧州ひとり旅】傾斜

【欧州ひとり旅】傾斜

 ようやく路地を抜けたと思っていたら、見えたのは、右から左へとのぼる坂道でした。目の前を通りすぎる老夫婦の光る汗と切れた息を見るにつけ、ああ、この傾斜は良くないぞと、徐々にせまるその坂におののくわたしがいます。

 しかし同時に、良い香りがします。おそらく右から。たしかにカフェのテラス席のようなものがちらちらと見えていますから、この傾斜を乗り切るための準備をするには、適切な場所があるかもしれませ

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【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-a『ほら、そのカメラは』

【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-a『ほら、そのカメラは』

 朝5時すぎだったと思います。個室の扉が2、3回ノックされて、7月15日の始まりは、まさにそのノック音とともに始まりました。眼の焦点も合わぬまま扉を開けると、昨夜少し話をした車掌さんが立っています。クロワッサンやオレンジジュースなんかが無造作に並べられた、朝食のプレートを持っていました。

 “Buon appetito!(召し上がれ!)”

 寝起き数分で言い渡されるその言葉と朝食の匂いに、小学

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【北イタリアひとり旅:第1章】Ep.7/14-d『トリエステ行きの寝台特急』

【北イタリアひとり旅:第1章】Ep.7/14-d『トリエステ行きの寝台特急』

 乗る予定の寝台特急がまもなくホームに入線するという頃、わたしはというと、ローマテルミニ駅の2階を彷徨っていました。テイクアウトでなにか食べ物を買って、車窓からの景色に夜のイタリアを想い、寝台個室で食べようというのです。

 故障したエスカレーターの脇に、ハンバーガー屋さんを見つけました。お店の雰囲気が、いつかみたハリウッド映画に出てくるそれのようで、映画のワンシーンを意識してシャッターを切ってみ

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【地中海ひとり旅】ステレオタイプな十字路

【地中海ひとり旅】ステレオタイプな十字路

 「あんた、日本人かい?だったら頼む、この車直してくれないか?」

 フロリアナのホテルをチェックアウトしてまもなく、路地裏の十字路でそう呼び止められました。振り返ると、体の大きいお兄さんが車のボンネットを開けていて、わたしに背を向けてはいましたが、話しかけてきたのはきっとあの人に違いありません。綺麗なスキンヘッドに、ヨレたジーンズ。ちょっと怖そうです。

 「そんなこと言われても、わたし車のこと

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【地中海ひとり旅】きみとはもう二度と

【地中海ひとり旅】きみとはもう二度と

 「じゃあ、きみとはもう二度と会わないかもしれないわけだ」

 キッチンカーのおじさんは、たしかにそんなことを言った気がします。あまり寂しいことは言いたくなかったのですが、わたしは「そうかもしれませんね」と答えるしかありませんでした。

 せっかく時間もあったので、地図を見ずにこの島を歩いてみようと決めたことを、後悔はしていません。マルタに来てからというものの、食べているものは、カロリーの高いもの

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