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【北イタリアひとり旅:第2章】Ep.7/15-c 『心地よさの確認として』

 ブラーノ島に到着したわたしは、まずひと通りこの島を歩くことにしました。ひと通りといっても、30分もあれば一周できてしまう大きさの島であることは分かっていましたから、大したことではありません。リュックからコンパクトフィルムカメラを取り出して、あと、昨日寝台特急でもらったお水も。

木漏れ日のよく似合う、オレンジ色のおうち

 ブラーノ島を訪れることは、実はわたしにとって「旅」とは言えません。どちらかというと、旅の間の「小休憩」とも言えるでしょうか。この教会も、あの路地裏も、それからこの空気も潮の香りも。5度目ともなれば、それはおよそ地元にいる感覚であって、高揚よりは安心があり、目に入るものすべてが、日本からここまでの移動の疲れを癒してくれます。

パジャマ姿のおじいちゃん

 「あんた、前にもここに来たことあるだろう」

 島の中央へと伸びる運河のわき道で、パジャマ姿のおじいちゃんにそう話かけられた時は、本当にびっくりしました。たしかにブラーノ島を訪れるのはこれが初めてではありませんが、観光客の多いこの島で、わたしの顔を覚えているなんて。手探りでその理由を探ろうと試みましたが、思いのほか、すぐに分かりました。わたしが以前仲良くなったおばあちゃんの営むパン屋さんの、常連さんだったのです。

 「すぐに分かったよ、あんなに楽しそうにカメラを構えている姿を、前にも見た覚えがあったんだ」

午前9時の時点で、気温はすでに30℃超え

 心地よさの確認として深呼吸をするには、7月の北イタリアの空気はあまりにも暑苦しいものでしたが、潮っ気のあるぬるい空気を鼻から吸い込むそのたびに、わたしのほおはゆっくりと緩むのでした。

似たような家ばかりで、相変わらず迷子にはなりかけたり

北イタリアひとり旅日記より
in Brano, Italy Jul.2024

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