国民投票法改正案についてまとめてみた
与党、自民・公明両党は5月19日、幹事長と国会対策委員長らが会談し、国民投票法の改正案を今国会中に成立させる方針を改めて確認しました。翌20日、与野党は28日に今国会で初めてとなる憲法審査会を開いて、国民投票法をめぐる自由討議を行うことで合意しましたが、一部野党側は審議には応じない構えです。またTwitterでは、「#国民投票法改正案に抗議します」がトレンド入りするなど、今国会での成立が見送られた検察庁法改正案に続き、国民投票法改正案が話題となっています。
そこで今回は、そもそも国民投票法とはなにか、改正案でどこが変わるのかという点と、改正案の現状についてまとめていきたいと思います。
そもそも国民投票法とは?
国民投票法とは、正式名称「日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票法)」のことで、2007年5月18日に公布・施行されました。同法は一度改正されており、2014年6月20日に同法の一部を改正する法律が公布・施行されました。
国民投票法は、日本国憲法第96条に定める日本国憲法の改正について、国民の承認に係る投票(国民投票)に関する手続を定めた法律で、日本国憲法第96条は、憲法改正の手続きについて、
1 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
と定めています。国民投票の投票権は、年齢満18歳以上の日本国民が有することとされており、憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数の2分の1を超えた場合、憲法改正が国民に承認されたものとみなします。
改正案ではどこを変えようとしているの?
今回の改正案で変わるポイントは、この7項目です。
1.投票人名簿等の縦覧制度の廃止と閲覧制度の創設
〈現行〉
投票時に他の投票人の個人情報(氏名・生年月日・住所)が縦覧可能。
【改正案】
個人情報保護の観点から縦覧制度を廃止し、新たに閲覧制度を創設。
2.「在外選挙人名簿」への登録の移転の制度(出国時申請)の創設に伴う国民投票の「在外投票人名簿」への登録についての規定の整備
〈現行〉
在外選挙人名簿への登録基準日もしくはその直前に、在外選挙人名簿の出国時申請を行って出国した者は、登録基準日時点で在外選挙人名簿への登録の移転の手続が間に合わないため、在外投票人名簿にも国内の投票人名簿にも登録されることはなく、憲法改正国民投票に参加する機会を失う。
【改正案】
登録基準日までの間に在外選挙人名簿への登録の移転の申請をして出国をした者で、その後、在外選挙人名簿への登録の移転が行われた者については、在外投票人名簿の登録をする。
→制度の谷間によって国民投票に参加できない在外有権者を救済。
3.共通投票所制度の創設
〈現行〉
投票当日は指定された投票区の投票所のみ。
【改正案】
投票日でも駅や商業施設で投票可能に。
4.期日前投票事由の追加・期日前投票所の投票時間の弾力的な設定
〈現行〉
期日前投票の理由に災害や悪天候がなく、期日前投票は8:30~20:00に固定。
【改正案】
期日前投票の理由に災害や悪天候を追加し、各自治体の判断で投票時間の繰り上げ・繰り下げが可能に。
5.洋上投票の対象の拡大
〈現行〉
「便宜置籍船の船員」「日本国籍を有する船員が2人以下の船舶の船員」「実習を行うため航海する学生・生徒」は投票不可(※注1)。
【改正案】
「便宜置籍船の船員」「日本国籍を有する船員が2人以下の船舶の船員」「実習を行うため航海する学生・生徒」も投票可能。
6.繰延投票の期日の告示の期限の見直し
〈現行〉
天災等で投票を行うことができないときや、更に投票を行う必要があるときに行う、繰延投票を行う場合には、少なくとも5日前に告示しなければならない。
【改正案】
繰延投票を行う場合の告示日を、少なくとも2日前に。
→例えば、投票日当日が悪天候等により投票不能であることが投票日前日に確実になった場合、投票日の前日に繰延投票の告示を行えば、最短で当初の投票日の翌日を新たな投票日に設定できる(現行だと、投票日の前日に繰延投票の告示を行うと、最短でも当初の投票日から新たな投票日まで中4日空いてしまう)。
7.投票所に入ることができる子供の範囲の拡大
〈現行〉
投票所に出入りできるのは原則、「投票人」「投票所の事務に従事する者」「投票所を監視する職権を有する」「警察官」のみ。
【改正案】
選挙権を有さない18歳未満の児童・生徒も投票所に入ることが可能に。
以上が、今回の改正案で変更される点です。
2は2016年の公職選挙法改正でも補いきれない制度の谷間を埋めるものであり、1は、2006年の公職選挙法改正と2016年の公職選挙法改正の内容を、3~7は、2016年の公職選挙法改正の内容を、国民投票法に反映させるものになっています。
国民投票法改正案の現状は?
この国民投票法改正案は2018年6月に、自民党、公明党、日本維新の会、希望の党の4党が共同提出したものです。同年7月に憲法審査会で提案理由説明が行われましたが、その後は自民党の憲法審査会開催要請に立憲民主党などの一部野党が応じず、法案審議は一度も行われることなく、5国会にもわたって継続審議の扱いとなっているのが現状です。昨年11月、佐藤勉衆議院憲法審査会会長は、国民投票改正案の実質審議が一度も実施されていない現状について「異常な状態」と述べています。
なぜこのような現状が続いているの?
先に挙げたように、自民党が衆院憲法審査会の幹事懇談会を開くなど断続的に協議を重ね、憲法審査会の開催を提案しているのですが、立憲民主党や国民民主党などの一部野党が開催に応じていないためです。
一部野党が開催に応じない理由としては、インターネット広告やテレビCMの規制を議論するよう要請しているためです。自民党は、今回の改正案では野党が議論を要請する点は含まれておらず、公職選挙法と国民投票法の規定を揃えるため、改正案の議論及び採決を重ねて訴えているものの、一部野党が上述した要請の姿勢を崩さず、改正案の審議をするための憲法審査会の開催に応じていないため、このような状態が続いています。
自民党の新藤義孝与党筆頭幹事は、改正案について「必要な規定整備」と述べており、自民党は公職選挙法と国民投票法の規定を揃えたいのですが、立憲民主党会派の階猛幹事は、「真に憲法改正が必要な時に議論すべきだ」と述べるなど野党は慎重論に一貫しています。
どのような反対意見があるの?
主な反対意見としては、現行の国民投票法の投票日前の、「国民投票運動」に関する規定に問題があるという意見があります。
政党などは一定のルールのもとに、憲法改正案に対し、賛成または反対の投票をするよう「国民投票運動」を行うことができます。現行の国民投票法では、投票期日14日前から、国民投票広報協議会が行う広報放送を除き、テレビやラジオの広告放送は制限されます。いわゆるCM規制です。
一部野党は問題視しているのは、14日前より前の期間は規制がない点で、政党の資金力によってCM量に違いが出ると指摘しています。さらに、お金があれば広告手段をフル活用し、露出を増やせるので有利であり、これにより国民投票の結果が左右されてしまう恐れから、公正な国民投票になるとは言えないなどと主張しています。
しかし、今回提出されている改正案の現行法からの変更点及び論点は、公職選挙法と国民投票法の規定を揃えるための7項目であり、CM規制の点は自民党も認識しており、今後議論していく必要がある課題として改正案の参考資料にもきちんと記載されています。
まとめ
以上まとめてきた通り、この国民投票法改正案に問題があるものとは認められないと思います。
一部野党はCM規制等を理由に、これまで審議拒否をしてきましたが、本改正案は公職選挙法の改正という社会変化に伴い、国民投票法と改正された公職選挙法の規定を揃えるもので、CM規制に関する改正案ではありません。CM規制に関する主張は理解はできますが、当初投票日前1週間としていた広告放送の禁止期間を、共産党や社民党などが上述した資金力等による問題が発生することを主張したため、期日前投票の期間と同じ、投票日前2週間に延長することで合意して国民投票法は成立したという経緯があり、公職選挙法改正等の社会変化による理由ではなく、国民投票法成立当初に合意した内容と全く同じ内容の主張で、審議を拒否されても困るの一言です。
国民民主党は、対案を出しているという点では評価できますが、「対案を丸のみするなら、いくらでも議論に応じる」(玉木代表)という、自分の言うことが通らなければ審議に応じないは、少し幼稚に感じます。対案を出しているのなら、憲法審査会を開いて堂々と議論をすればよいのではないでしょうか。自分たちの案が通る通らないではなく、対案があるのですから、憲法審査会を開いて憲法議論を少しでも前へ進めるという気持ちが欲しいところです。自分達の案を通したいのならば、選挙で国民の信任を得て、多くの議席を獲得することが必要です。
立憲民主党、社民党、共産党は、とにかく改憲を阻止したいので、改憲に関わる事案は、1歩や半歩どころか、つま先1ミリでも前に進めたくないのでしょう。
また、新型コロナウイルスへの対応や二次補正予算の議論に集中するべきだとの声がありますが、これらの対応や議論をするのは当たり前です。新型コロナウイルスへの対応と二次補正予算の議論だけを行うのが国会ではありませんし、これらの議論を行うと他の議論が行えないわけではありません。これらの議論も行いながら、憲法審査会を開催して国民投票法の改正案を議論をすることは十分可能ですし、それが通常です。国民投票法改正案は不急の議論とも主張していますが、上述した通り、5国会にもわたって継続審議の扱いとなっている異常な状態です。「真に憲法改正が必要な時に議論すべきだ」とも主張されていましたが、ではいつ議論すればよいのでしょうか。
このような憲法改正の発議自体を否定するような主張もありますが、それははっきり言って議会制民主主義の否定です。国会は、国民の信任を受け国民が選挙で選んだ代表者である国会議員で構成されています。つまり、国民の民意が政党の議席数に反映され、国民の民意に従って首相が選ばれたり立法が行われたりするのです。
主権を有する国民に選ばれた国会議員が国会にて発議を行い、国民に改憲を「提案」するという流れからすると、そもそも国民に改憲やその議論を認める意思がなければ発議は行われませんし、発議が行われたら国民投票になるわけで、最初から最後まで国民に憲法の改正に対して選ぶ権利があります。
ですので、各議院の3分の2の国会議員が憲法改正に賛成し、憲法改正の発議が行われた場合、「国民に改憲の意思がない」などと主張することは議会制民主主義の否定を意味します。国民の意思によって選ばれた国会議員が改憲の発議をしているのですから。そして、最終的には国民投票で国民自らが改憲の選択をするため、憲法に記されているように、主権はきちんと国民に在ります。
「憲法改正の発議」と、公職選挙法と投票の規定を揃える今回の「国民投票法改正案」、そして「内閣支持率」を並べるのは、理解に苦しみます。
最後は、私の意見を長々と書いてしまいましたが、この記事を読んで改正案に賛成しようと思った、いや反対だと思った、どちらでも構いません。どちらであっても、政治に対して関心を持ち、自分の意見を持つということが大切です(政治に対する意見というのは論理的であることが求められますが)。とにかく、この記事があなたの意見の参考になれば幸いです。
では、今回はこの辺で。
また次の記事で、お会いできることを楽しみにしています。
(※注1)便宜置籍船とは、その船の事実上の船主の所在国とは異なる国家に船籍を置く船のこと。実質的な所有主の国籍国の船旗ではなく、便宜的に船籍を置いた他国の旗を付けて運航される。しかし、外国の個人又は法人の所有する船舶の船籍登録を認める便宜置籍国は限られており、便宜置籍国は税収等のため、船舶に対する優遇税制等の措置を講じ、先進国船社の船舶の誘致・置籍を図っている(一般的にはバハマ、サイプラス、レバノン、リベリア、オマーン、パナマ、ヴァヌアツの7ヵ国を指す)。
参考:日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案
参考:衆憲資第96号 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案(細田博之君外7名提出、第196回国会衆法第42号)に関する参考資料 平成30年6月衆議院憲法審査会事務局