『偶然の祝福』小川洋子(2004)|読書感想文
本の紹介
捜し物の得意なお手伝いさん、私の本を集めているストーカー、蝶の痣をもつ男…私の人生に突然現れて突然去っていった人たち。それでも私は生きていく、それでも私は書き続ける。ちょっと勇気をもらえる連作小説。
感想
すっと心に沁みる文
目の前のものを見ながら、関係のないことにふと意識がそれてしまう、そんなシーンがいくつかあったのですが、その流れがとても自然で読みやすかったです。その他の部分も読んでいて、余計なことを考えるストレスを感じない、心にすっと入ってくる文でした。
出会いを大切にすること
この小説では主人公がいろいろな人との出会いと別れを経験します。出会えた不思議や別れの喪失感を大切に持って主人公は生きていくんだろうなと思います。そしてそれは、必要なときに必要な人と出会えたからなのかなと思います。実際の生活でも人は必要なときに必要な人と出会えるようになっているのでは無いかと思うことがあります。ひとつひとつの出会いを大切にしようと思いました。
ポケットだらけのコートの謎
優しいのかひどいのかわからないポケットだらけのコートの男が、ひとつだけ空いているポケットに甘栗を入れるエピソードが、この連続小説の中で私は一番好きなのですが、一つ気になることが。小説の中では、もしかしたら幻覚なのかもという雰囲気もありましたが、コートにたくさんのポケットが付いていてそのポケットには本が詰め込まれているなんて人実際に居るのでしょうか。フランスの小説『ラ・ボエーム』にも似たような人が登場するのでちょっと気になります。
最後に
久しぶりに小川洋子さんの小説を読みました。この小説はどちらかと言うと、別れや喪失にテーマが置かれていますが決して湿っぽくはなく、読みやすく、むしろ前に踏み出す勇気をもらえる作品でした。読んで良かったです。