望月もちもち

もちもちっ!もちもちも。もちっもち、もっちもち。もちもちもちもち☀️ 将棋クエスト五段です。

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最近の記事

アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第十話】

【第十話】  十時過ぎに就寝となり、リビングのソファで横になったが眠れるはずもなく、夜中になっても目は冴えていた。  こうなったら寝ずに朝を待とう、と決意し、僕は布団の中でスマホをいじり始めた。  キッチンから常備灯の薄暗い灯りが漏れているので、リビングはうっすらと明るかった。  部屋には古賀さんのいびきだけが響いていた。  と、フクモトさんとビリーが小声で話す声が聞こえ、僕は慌ててスマホの画面を消した。 「あの鈴木って人、大丈夫かしら。いかにも精神に問題を抱えていそうな雰囲

    • アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第九話】

      【第九話】 「君、今にもあっちの世界に行っちゃいそうな雰囲気だよね」 「い、今からどうしようかなって考えてたところです。本当ですよ」僕は慌ててごまかした。 「ふうん……。そうですか?」 「そうです。間違いなくそうです」 「……なら、いいんだけど」  男はそう言いつつ不信感に満ちた目でじろじろと僕を見た。  一見すると五十代だが、間近で見ると、皮膚やしわの感じからもっと年配にも見えた。荷物はリュック一つとコンパクトで、旅慣れた雰囲気だった。 「それにしても、君は日本語が上手なん

      • アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第八話】

        【第八話】  帰国後、僕は父に内緒で大学を休学し、食品加工工場でバイトを始めた。  父には、今回の旅行で僕のアイデンティティが却って混乱してしまったことはおくびにも出さなかった。  トイレに駆け込んだのも時差で具合が悪くなったからだと、またしても取り繕った報告をした。  休学の際には書類に親のサインが必要なのだが、細心の注意を払い父の筆跡をまねて提出したら受理されてしまった。  工場をバイト先に選んだのは人間関係が希薄そうなことと、マスクや帽子で多少なりとも黒い肌を隠せるだろ

        • アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第七話】

          【第七話】 「まず、私の養父母の話からしなきゃいけないんだけど、養父母は、ポンやプン族長が属しているピピ族の出身なの。両親は戒律の多いピピ族の生活にうんざりして、街のレストランで経営ノウハウを学ぶため、一族を捨てて脱走した過去があるんだ。一族に発見されないまま数年後にレストランを無事にオープンさせて、経営が安定してきた頃に、まだ赤ちゃんだった私を養子として迎え入れた。そんな幸せの絶頂期に、両親はピピ族の若者衆に居所を探し当てられてしまったのよ。ピピ族の掟では、一族から脱走した

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第六話】

          【第六話】 「オネガイシマス」サフラが礼儀正しく頭を下げた。 「お、お願いします」僕もお辞儀を返す。  サフラが細い指で歩兵をつまむ。  パシッと小気味よい音を立てて初手が指された。  リビングのテーブルに折り畳み式の将棋盤が置かれ、僕とサフラが向かい合わせに座っている。バリーさんはサフラの横で、食い入るように盤上を見守っていた。夫婦揃って真剣な表情だ。  (僕が趣味としているのは碁であって将棋ではないし、サフラが将棋好きだなんてメールのやり取りでは一度も話題にならなかった

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第六話】

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第五話】

          【第五話】 翌日。  いよいよサフラ夫婦宅を訪れる約束の時が来た。  一人で再会したかったので、父はホテルに残ってもらった。  赤い屋根の家の前に立つ。日本の一般的な一軒家くらいの大きさだった。家屋の造りの立派さから、サフラ夫婦がこの国では上流階級に位置することが改めて窺えた。  玄関の前に立ち、耳を澄ませてみても中からは物音一つ聞こえないので、本当にこの家なのか心細くなってくる。  深呼吸し、心を落ち着かせてからドアをノックした。  やや間があって、若い男の声で返事があり

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第五話】

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第四話】

          【第四話】  翌朝、僕とサフラが保護された孤児院へ向かった。  ホテルから徒歩十分程で到着した施設は、一階建ての古びた長方形の建物で、小さめの窓にはガラスの代わりに鉄格子が埋め込まれていた。今は小学校として使われているのだと父が教えてくれた。  休みなのか課外授業なのか、教室には誰もいなかった。父が僕がいた部屋を教えてくれた。鉄格子の隙間から中を覗くと、古びた机が雑に並んでいる薄暗い教室だった。かつて孤児院だった面影は残っていなかったが、教室を眺めて感慨に耽っているうちに、

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第四話】

          恋愛相談は釈迦如来像さまへ。※第20回深大寺恋物語の落選作品ですぅーー!!

           困り果てた僕は釈迦如来像さまに相談することにした。  五反田さんが、チャラくて圧が強そうな黒っぽい野郎と街中で手をつなぎながら歩いているところを目撃してしまったのだ。  高校の入学式の帰り際、同じクラスになった五反田さんに「これにてドロンしまーす」とあいさつしたのが僕たちの交流のきっかけだった。それ以降、「冗談はよし子ちゃん」「よっこいしょういち」「合点承知の助」などとあいさつ代わりに気さくに言い合う仲になっていった。  そんなある日の放課後、ショッピングモールのベンチでぼ

          恋愛相談は釈迦如来像さまへ。※第20回深大寺恋物語の落選作品ですぅーー!!

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第三話】

          【第三話】  誰もいない自宅に帰宅するなり、僕は薄暗い自室のベッドに仰向けになった。  とめどなく気分は落ち込み続け、僕はさめざめと涙を流した。  四人揃って生徒会室で面白おかしくやっていた頃の情景が蘇った。  財津と校庭に忍び込んだ夜が思い浮かんだ。あの夜、二人が互いに感じていたものは、純な男同士の友情だったはずだ。   (一体、なぜ……)  耐え難い現実に打ちひしがれていると、忘れていたはずの自らの外見に対する違和感が再び頭をもたげ始めた。  僕は溜息を吐いて布団を被り、

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第三話】

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第二話】

          【第二話】  トロッコは山の中腹を抜け、徐々に下り始めた。会話は途切れがちになり、僕たちは静かに山の景色を眺めていた。  と、財津がブレーキを踏んでトロッコを急停車させた。 「荒川、俺たちと一緒にバンドやろうぜ」  初耳だったので、皆驚いて財津を見た。 「えっ、私も?」 「荒川が加入してくれたら最高のバンドになると思ってさ。ほら、高校の学祭でギターやってただろ?」   財津が座席に後ろ向きに座り直し、荒川の目をまっすぐ見ながら言うと 「私、新聞サークルに入っちゃったし、これか

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第二話】

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第一話】

          【あらすじ】  ブルキナファソ生まれの孤児が、和太鼓職人の鈴木五右衛門と養子縁組を結び「民民」と名付けられる。  アフリカ系日本人として日本で育った民民は現在、大学生活をスタートさせたばかりの若者である。  バンドを組みキャンパスライフを謳歌しようとしていた矢先、バンドメンバーの女子が黒人の暴漢に襲撃される事件が起こる。  翌日、ギターボーカルの親友財津に民民が犯人だと誤認されてしまい、民民は立ち直れぬ程のショックを受ける。  この事件をきっかけに、自身が黒人であることへの違

          アフリカ生まれ、鈴木民民の冒険【第一話】