かぞくのくに
私には、ほかの人たちが持っているような思い出がない。
なぜなら、兄が海を渡って行ってしまったから。 「かぞくのくに」より
この本を書かれた、ヤン ヨンヒさんは日本で生まれ、朝鮮国籍を持っている人だ。
ヨンヒさんには、3人の年の離れたお兄さんがいた。
そして、ヨンヒさんが6歳の時に「祖国に帰った」のだ。
ヨンヒさん、ヨンヒさんのお父さんとお母さんを残して。
当時、祖国は「地上の楽園」になると日本のメディアを含め報じていた。
しかし、「楽園」から来た手紙に入っていたのは、がりがりに痩せた兄の写真だった。
ヤン ヨンヒさんは自身と家族に起こった事を映画にした。
この本と同じ題名「かぞくのくに」
初め、この本を読み始めた時、なんて文章がうまい方なのだろうと思った。
けれど読み進めるうちに文才があるだけではないと感じた。
大半の本は、読者層を潜在意識の中であっても絞り込んでいる、「この人に届けたい」と言う風に、そのターゲットに向けて書いてある。
しかし、この本は千人の人がいたら千人に、一億人の人がいたら一億人に、この世に生きている人、全てに伝わるように書いてある。
この表現は伝わりにくいかもしれないが、火星に一人で住んでいてもこの本は読んだ通りに読めるなと思った。(根本的状況が違くても伝わるのだ)
教科書に載っている文章にもこんなことってないよなぁと彼女の考え抜いた日々に胸が痛んだ。
どうして? どうして? どうして?
と彼女の涙が染みついたインクで書かれた思いは、他人に伝える、その一つの意思のみによって書き進められていた。
私が書かなかったら、誰が書くのだろう。
そんな声が一字、一字に含まれていた。
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