#ネタバレ 映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」
「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」
2020年作品
謎は刑事の側に残る
2020/11/17 9:18 by さくらんぼ(修正あり)
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
主役から脇役まで名のある実力派の俳優さんが出ています。
皆さん熱演しておられ、本当にお上手ですが、特に柄本 明さんは怪物だと改めて思わせてくれた作品です。
しかし、作品としての出来栄えはというと、(失礼ながら正直に申せば)TVの2時間ドラマといったところでしょうか。昔と違ってTVドラマの質は映画と拮抗するぐらい良くなりました。ですから、そんなに悪い評価をしたつもりはありません。
ただ、大金を払い半日がかりで映画館へ出かけて観るには、TVドラマ+αに期待するわけです。でも、私にはその+αが見つけられませんでした。
それと、原作がどうなのかは知りませんが、まるでTVの連続刑事ドラマの映画版のように、男女ペアの刑事がいきなり登場し(奴らは何者? どうしてペアになったの?)、背景説明が無いので、置いてきぼりを食ったような気持ちで観ることになりました。
映画「ダーティハリー3」だったでしょうか。女性のバディが登場しますが、出会いの際の二人の葛藤がしっかりと描かれています。しかし、こちらには、それが無いのです。ラストになっても解決しない、このペアの謎の方が、私にとっては気になりました。
★★★
追記 ( 警察と犯人の共通点 )
2020/11/17 9:41 by さくらんぼ
男女ペアの刑事は、「ダーティーハリー」のように、いや彼以上に暴力的です。
男から女へ、女から男への「ボディーブロー」が一回づつありました。もちろん相手は悶絶です。
さらに、女から男への「張り倒し」が一回、
男が令状も無しに、大家の制止を無視し、しかも発作的にアパートのドアをけ破るシーンが一回ありました。
覚えている限りですが。
私はその方面の法律は詳しくありませんが、どうも刑事が法律を無視した暴力をふるっているようなのです。
特に、け破った部屋の中に被害者の写真がありましたが、違法捜査で得た証拠は有効なのでしょうか。
「緊急避難だから暴力は容認される」と警察が考えるのなら、「(患者にとっての)緊急避難だから暴力(嘱託殺人)は容認される」と犯人も考えるのかもしれません。
もしかしたら、そのあたりが映画の主題なのかも。
追記Ⅱ ( グレーゾーンの困惑 )
2020/11/17 10:05 by さくらんぼ
人を殺めた場合、事故なのか、故意なのかで法的な罪の重さが違ってきますね。
喧嘩で殺めた場合でも、殺意があったのか否かで違ってくるようです。
あるいは精神病なのかでも。
この映画の犯人は35人ぐらい殺していたようですが、患者の依頼をビデオ撮影していたり、幸せそうな最後の顔を写真撮影していたりで、嘱託殺人の証拠を残しています。遺族も皆、犯人に感謝し、警察の捜査からかばっていました。
しかし、最後の標的、透析患者の女の子は、自分を追っている刑事の娘であり、上記の35名とは違い、刑事への嫌がらせの気持ちが混ざっているようです。
とすると、警察側は怒って、殺人35名・殺人未遂1名で立件しようとするかもしれませんが(映画のラストシーンには追記で書いた報復の暴力がありましたし)、実際は、嘱託殺人35名・殺人未遂1名になるのでは。
繰り返しますが、私はこちらの方面は素人ですからよく分かりませんが。
追記Ⅲ ( 映画「ミリオンダラー・ベイビー」 )
2020/11/17 10:34 by さくらんぼ
自殺ほう助、嘱託殺人、安楽死など、微妙な言葉の違いは素人の私には良く分かりませんが、要するに、この映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」は、映画「ミリオンダラー・ベイビー」と似ているのだと思います。
死の「グレーゾーン」について問題提起をし、だれにとっても幸せな末期を、目指しているのでしょうか。
追記Ⅳ ( 看護師のトラウマ )
2020/11/18 9:55 by さくらんぼ
それと、この時期に公開された理由は、もう一つあるように思います。
この映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」の犯人は元・看護師です。
映画では詳しく描かれていませんが、現役時代の彼女は、仕事がら「たくさんの苦しむ患者と家族を見つめていた」のだと思います。しかし、現在の日本の法律は「安楽死」(以後そう呼びます)を認めてはいません。
彼女は、「願いを無視して患者を生かし続けること」にトラウマを負い、耐えきれなくなって看護師を辞めた可能性があります。
そして、落ち着いた後に、「安楽死をさせるのが自分の務めだ」と思い始めたのかもしれません。もちろん、この段階で彼女は道を誤っていますが、彼女にとっては看護師時代の罪滅ぼし、イコール、無意識にトラウマを癒す儀式だった可能性もあります。
今、新型コロナウイルスで、その対策に従事しておられる医療関係者の方々は疲弊しています(大変感謝しています)。これは私の想像ですが、その医療関係者の方の中には、第一波の医療崩壊の危機にトラウマを負った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
だとすると、第二波、第三波が来た時の脅威は、私のようなその他大勢の人より、はるかに大きく感じておられるのだと思います。
この映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」は、そんな苦しみの中のおられる医療従事者の方々にあてた、感謝の献辞だったのかもしれません。
追記Ⅴ ( 「陰陽魚太極図」 )
2020/11/18 17:44 by さくらんぼ
>この映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」は、そんな苦しみの中のおられる医療従事者の方々にあてた、感謝の献辞だったのかもしれません。(追記Ⅳより)
犯罪者を使って感謝の献辞をするのは失礼ではないのか、という話があるかもしれません。私もその気持ちは否定しません。
しかし、映画「ミリオンダラー・ベイビー」だけでなく、映画「許されざる者」 (1992年)、映画「ランボー」そうですが、映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」も、いわゆる「陰陽魚太極図」なのだと思います。
「悪の中にも善が混じっており、善の中にも悪が混じっている」という。
映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」のなかでは、石黒賢さん扮する警察の上司が、「殺人は殺人だ!」と吐き捨て、物語を単純化していました。
警察の仕事は犯人を逮捕することで、裁判することではないので、それも仕方ないのかもしれませんが、暴力的な刑事たちが登場する理由もその延長線上の演出なのだと思います。「善の中にある悪」という。
そして、犯人である元・看護師の中には、苦しみからの救済という、「悪の中にある善」があるのだと思います。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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