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愛の礫stillalive Jul. 2023

❁⃘  101 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

音楽だけで語りあえたら
どれほど優しさで満ちるだろう
きっとどんないさかいも
怒りも憎しみも嫉妬さえ
和音のなかに溶けあっていく
あなたの胸に耳をあてると
思わず涙ぐんでしまうほど
強くたしかな音楽が聞こえる

❁⃘  102 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

これまでたくさんの線を引き
賢くなったつもりでいたけれど
こちらとあちらとを分けるとき
どんな嫉妬も侮蔑もないだろうか
縦にも横にもひとびとの間にも
引かれたおびただしい線から
いったいなにが生まれただろう

❁⃘  103 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

胸の鼓動も汗の匂いもくちづけも
シャツの色さえ憶えているのに
あなたの顔が思い出せない
あなたはほんとうは誰だったかしら
眼差しは私を見つめてくれるけれど
首も肩も腕も胸も
こんなにありありとよみがえるけれど

❁⃘  104 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

世界はどんなふうに
終わりを迎えるだろう
おやすみと言いながら
枕元の灯りを消すように
いつのまにか治っている
薬指の擦り傷のように
そっと息を吹きかけるように
世界は終わるだろう
あたりまえで気づかないうちに

❁⃘  105 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

どうしてもうまく言えないときは
句読点になってうずくまる
余白にひろがる水面に
さざなみが立つように
ときおりこっそり
口笛なんかを吹いたりする
どうかすこしだけ立ちどまって
耳をすましてくれますようにと

❁⃘  106 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

捨ててあったあなたの抜け殻を
セーターの代わりに着てみたら
思いのほか似合って
誰にも気づかれない
それどころか
声も仕草もそっくりになって
あなたの名前で呼ばれるので
今ではすっかり
あなたとして暮らしている

❁⃘  107 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

手のひらのなかで
小さなためいきが揺れやまない夕暮れ
彼方から雨の匂いがするような
大切な約束を忘れているような
そんな気がして
こころせくのはなぜかしら
ほんとうはひとりきり
ただ窓から眺めているだけなのに

❁⃘  108 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

からだのどこかに
置き去られた傷痕があって
いつまでも治らない
澄んだ海が
ときおり
涙となってあふれてくる
かなしくはないはずなのに
あなたと音楽を
聴いているだけなのに
穏やかな風に
吹かれているだけなのに

❁⃘  109 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

公園のベンチでうたた寝をしていると
ふいに
あなたがやって来たような気がする
あわてて目を覚ましてみると
猫が背中を丸めている
あなたの声も聞こえたはずなのに
空の青がまぶしすぎて
どうしても涙がとめられない

❁⃘  110 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

人知れず
ゆっくりと迷子になりたいのに
一日の終わりが
あまりにも華やかすぎて
じょうずに隠れることができない
たくさんの音楽やおしゃべりで
飾りたててさえいれば
にぎやかな明日が
やってくるとでもいうように


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青山勇樹
あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。光と戯れる言葉のきらめきがあふれますように。

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