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天帝の支配から天皇の支配へ

『双調平家物語 1 序の巻 飛鳥の巻 』橋本治(中公文庫)

これは、「栄華」という幻想に憑かれた男達の物語である。話は、平清盛から始まらず、その栄華の原型を作った藤原氏、更には、本朝が範とした中国の叛臣伝から始まる。秦の趙高、漢の王莽、梁の朱〓(い)、唐の安禄山。彼等は真実、叛臣なのか。そして、万世一系の我が朝に、果たして真実、叛臣はあるのか。
目次
序の巻(大序;叛臣伝;賊臣佞臣;女禍;安禄山 ほか)
飛鳥の巻(大織冠;御位談議;入鹿暴虐)

『平家物語』は仏教徒が書いた説話だと思うのだが序で中国の古代史を記述するのは中華思想の視点でありそれは天の視点なのかなと思う(『徒然草』の兼好法師と言われている。橋本治は『徒然草』より『枕草子』と言っていたが心境の変化だろうか)。そこに『窯変 源氏物語』とは大きく違った語り手の問題があると思う(『窯変 源氏物語』が最初は光源氏の一人称、光源氏亡きあとは紫式部の三人称)。

中華思想の叛徒は「女禍」や異民族が語られるのであり、その中心は安史の乱であろうか?安禄山という個性極まりない人物の出自や生業は興味深いのだが、どこか物語というより学術的な記述(名前を覚えるのも大変)がしてもう一つ感情移入がしにくかった。

安禄山は唐の皇帝玄宗にも愛され、楊貴妃の養子になっているのである(娘でもおかしくない年齢)。もとは唐を異民族から守る将軍だったのだ。安禄山を拾った将軍が安禄山を息子のように可愛がって将軍にした。安禄山は玄宗皇帝に対しても唐に対しても忠義を持っていたのだ。それでも叛徒となっていくのは、楊貴妃の又従兄妹が官僚となり、安禄山が従っていた当時実権を持っていた官僚と対立し、身内の楊貴妃が安禄山のような異民族と関係するのが我慢ならなかった。そのために安禄山は唐の長安の政権と対立して、みずからの国を築くのである。その物語が淡々と語られていく。それが天命であるかのように。安禄山の落ち度といえばその奇っ怪な身体とあまりにも従順すぎたからだろうか?ただ安禄山の落ち度というより、それは仕方がない運命として描かれている。安禄山に同情心を持たせないのが、この物語の特徴なのか?

終わりの方は藤原氏の摂関政治を大化の改新から。藤原一族の天下は道長(『源氏物語)にも繋がっているからだろうか?その藤原一族の栄枯盛衰なのか。序の中国史は無くても良かったかもしれない気もするが、中国から歴史の恩恵(害悪か?)を受けていることも記しているのかもしれない(摂関政治)。蘇我入鹿が易経を信じている。それは異民族としての天命であり、中大兄皇子中臣鎌足(藤原氏の始祖)は天皇(天皇制)の支配を望んだのである。小説よりも感情的物語のアニメの方が面白い(『キングダム』を並行して見ていたが)というかアニメ化してくれないか?無理だろうな。むしろこの橋本治の語り方がこの後もつづくのか?


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