大江健三郎の日常的なエッセイ
『親密な手紙 』大江健三郎(岩波新書 )
大江健三郎が個人的に手紙でやり取りした著名人の思い出と家族を取り巻く軽めのエッセイ。最初に義兄の伊丹十三亡くなった時に自身も病に伏していたサイードが励ましの手紙をくれたという、結局返事を出せないままサイードが亡くなってしまった。これまでたびたび語られているがお爺ちゃん作家になったからなんだか、繰り返し語られる話が多い。ただこの手紙が「晩年の仕事」としての小説を書く力を与えてくれたので大江健三郎はサイードに感謝しきれないのだろうと思う。
ただそんな中にも大江健三郎のユーモアを感じる手紙のエッセイもあり、佐多稲子が大江健三郎の小説を褒めたと母に話したら、かつて佐多稲子と交流があった母がぜひその先生(佐多稲子)の手紙を問題の箇所を赤いアンダーラインを引いて送って欲しいと言われたのだが、そこは性的な描写で母には送れなかったという話。何度も催促されたので最終的には送ったのだが。母の返信が面白い。あと光君との日常のやり取りなどほんと息子が好きなんだなと感じる。
それと晩年に大江健三郎が興味を持った作家の本などの引用も交えて興味深い。長い作家生活で第一線で活躍した人だけに著名人が多い。安部公房との絶交の元になった話は初めて知った。安部公房が小説を書かずルポルタージュばかり書いているから奥さんに注意してくれと言われたとか。しかし後にそのルポルタージュが小説のアイデアになったと知って詫び状を出したという。
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