「ドン・キホーテ」が好きなんだけど...
『日本の同時代小説 』斎藤美奈子(岩波新書– 2018)
メディア環境の急速な進化,世界情勢の転変,格差社会の深刻化,そして戦争に大震災──.創作の足元にある社会が激変を重ねたこの五〇年.「大文字の文学の終焉」が言われる中にも,新しい小説は常に書き続けられてきた! 今改めて振り返る時,そこにはどんな軌跡が浮かぶのか? ついに成る,私たちの「同時代の文学史」.
日本文学史の名著が1960年までしか扱っていないのでそれ以降の現代(現在)文学のブックガイド的な日本文学史か。この人は適役。ジャンルとらわれずに幅広く読んでいる。それまでの男性作家の視点じゃないから読み方が面白い。おっちょこちょいオヤジの村上龍とか。近代文学がヤワなインテリから始まったという視点。悩むだけで行動できない「ハムレット型」と闇雲に猪突猛進する「ドン・キホーテ型」に分けている。春樹が「ハムレット型」で龍は「ドン・キホーテ型」かな?
70年代になってルポルタージュ文学が流行ったというのは盲点だった。そう言われてみればそうかも。小説というジャンルに限定しなければそれも文学の方向性だったのだろう。「リア充」文学の。それから一時期芥川賞って言えば女性作家ばかりだったが、女性選考員が増えたり女性編集者が増えたからだと。あと「失楽園の法則」。イラク戦争後に「無意味な死」に対抗するように「美しい死」「意味ある死」を求めた渡辺淳一の『失楽園』。
90年代文学の後半が「涙と感動」(感動ポルノ)がベストセラーになる。東日本大震災のあとに、百田尚樹『永遠の0』も「意味ある死」「美しい死」を求め特攻を美化する。そういう感動ポルノが流行る一方で最近は震災後文学がディストピア小説ばかりでその先を示せない。元々近代文学が「ヘタれな知識人」「ヤワなインテリ」から始まったというのがあるから。まあ百田尚樹のようなドン・キホーテばかりでも困りモンだから文学はこのぐらいでいいんじゃないか。過度に期待しない村上春樹路線で。(2019/01/10)
関連図書:『文庫解説ワンダーランド』斎藤美奈子