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個人主義でいられなくなった漱石の足跡

『私の個人主義』夏目漱石

明治期の文学者、夏目漱石の講演筆記。初出は「孤蝶馬場勝弥氏立候補後援現代文集」[実業之世界社、1915(大正4)年]。本文のはじめに「1914(大正3)年11月25日学習院輔仁会にて述」とある。将来権力と金力を手にするはずの学習院の学生を前に、漱石は「自己本位」という立脚地を得た経歴から、「個人主義」について、自己の個性の発展を望むなら他人の個性も尊重し、自己の権力や金力を使うならそれに伴う義務や責任を重んじなければならないと説く。

漱石がまだ本格的な作家になる前に(『坊ちゃん』の後で『吾輩~』の前)学習院大学での講演。学習院とか選ばれし若者を前に権力とか金力とか、今の政治家に聞かせたい講演なのだが、漱石は「個人主義」を我欲であるというより、倫理に突かれ清貧に生きるじゃないけど、そういうことだと思った。「文学理論」も失敗作というように、思考よりも実体験を通して体現していく作家だったのかもしれない。次第に時代の精神と共鳴していくのは「個人主義」でいられなかった葛藤が後期の作品には出てくるのだと思う。



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