見出し画像

ボードレールをポスト・コロニアルで読む

『鏡のなかのボードレール 』くぼたのぞみ(境界の文学)

現代詩の始祖にして19世紀最大の詩人、シャルル・ボードレール。その恋人ジャンヌは、カリブ海出身で白人と黒人の混血女性でした。著者のくぼたのぞみさんは、詩人がかの女に捧げた「ジャンヌ・デュヴァル詩篇」を中心に語り、それらを訳し直しながら、さらにノーベル賞作家クッツェー『恥辱』へと、その思索を開いてゆきます――まるで割れた鏡の断片に、ふたりの姿が映し出されるように。それらの詩篇は、本邦初の女性訳『悪の華』ともなっています。
また、かの女を主人公にしたアンジェラ・カーター(Angela Carter)の傑作短篇「ブラック・ヴィーナス」(Black Venus)も新訳で収録。ボードレールを《世界文学》として読みかえるための、とても贅沢な1冊になりました。
目次
コンスタンシアの葡萄酒より
エキゾチックな香り
髪と猫
日本語とジャンヌへの眼差し
鏡、あるいはジャンヌの瞳
鏡のなかのボードレール
ボードレールと日本
『悪の華』と翻訳──詩と抒情詩の違い
J・M・クッツェーのたくらみ、他者という眼差し
ボードレールになってみる
附録、ブラック・ヴィーナス by アンジェラ・カーター
あとがき

ボードレールの愛人、ジャンヌ・デュヴァルは『悪の華』でも描かれておりボードレールのミューズ(詩神)として知られる娼婦である。彼女がカリブ海出身の奴隷(モーリシャスや南アフリカという説もある)。彼女が故郷喪失者であることが、ボードレールとの共通性を語っている。ボードレールの詩は『悪の華』のジャンヌ・デュヴァル詩篇。

19c のフランスによる植民化というジャンヌ・デュヴァルの出自。そんな彼女をミューズ(女神)としたボードレールを読んでいくポスト・コロニアルの試み。クッツェーの翻訳者だけにクッツェーがボードレールや19cの浪漫派詩人が影響(ワーズワースやバイロンのロマン派詩人)を受けたことへの作品の影響や、アンジェラ・カーター『ブラック・ヴィーナス』によるジャンヌの瞳に映る鏡としてのボードレールを読む試み。最後に『ブラック・ヴィーナス』の翻訳付き。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?