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俵万智の自己プロデュース力

『短歌 2023年2月号』

目次
【新連載カラーグラビア】
傑士の後姿…藤岡武雄
野に咲く花のやうに…梶原さい子 選
【巻頭コラム】うたの名言…高野公彦
【巻頭作品28首】三枝昂之・時田則雄・米川千嘉子
【巻頭特別作品50首】俵万智
【巻頭作品10首】中根誠・久々湊盈子・桑原正紀・浜名理香・伊波真人
【大特集】唯一無二の歌――短歌のオリジナリティ
総論 短歌のオリジナリティ…栗木京子
論考 オリジナリティを身に着けるには…平山公一・森井マスミ・川島結佳子・田中翠香
一首鑑賞「この人、この一首」…三友さよ子・間瀬敬・木下のりみ・松崎英司・本多稜・天野陽子・雲嶋聆
【作品12首】仲田紘基・さいとうなおこ・井ヶ田弘美・中西健治・渡辺礼比子・鈴木竹志・島内景二・岩井謙一・石川美南
【作品7首】湯沢千代・川井盛次・小池尹子・登坂雅志・小山純子・早智まゆ李・松野志保・北辻一展・小佐野彈・門脇篤史
【連載】
家族の歌…カン・ハンナ
フリージアの記…水原紫苑
挽歌の華…道浦母都子
かなしみの歌びとたち…坂井修一
ぼくは散文が書けない…山田航
啄木ごっこ…松村正直
【連載エッセイ】
歌人解剖 〇〇がスゴい!…綾部光芳
うたよみの水源――現代短歌の先駆者を辿る…山川築
一葉の記憶 ―私の公募短歌館―…小谷博泰
短歌の底荷…青垣・未来山脈
嗜好品のうた…沖ななも
ふるさとの話をしよう 宮崎県…足立尚彦
【歌壇時評・月評・歌集歌書を読む・書評】
【投稿】
角川歌壇…長澤ちづ・塚本 諄・井辻朱美・大辻隆弘選
題詠…川崎勝信 選
歌壇掲示板

作品

何と言ってもこの号は俵万智の【巻頭特別作品50首】だろう。これは先日NHKで放送された俵万智のTVドキュメンタリー「平凡な日常は、油断ならない 〜歌人・俵万智〜」の舞台裏を詠んだ歌だった。残念ながらTVは見てないけど予告編を見た。

そのときふと俵万智がオフレコのように漏らしたドスの効いた声が印象的で、確かこんなところまで撮るのかよ、と言っていたような。TVのドキュメンタリーとは言えNHKだし編集されているのは当然なのだが、その裏側を短歌で詠むという、それは俵万智による三十一文字、50首の編集ということになるだろうか?相聞歌と言っているのが興味深い。

つまり例えば学校の先生としての俵万智の顔がある。それと母親である顔とは違っている。さらに自己演出した歌人としての顔。俵万智は自然のようでいてそうした自己演出が上手い歌人だと思う。だから歌集『サラダ記念日』が異様なベストセラーになるのだし、ほとんどの現代歌人は彼女には世界に対する影響力に関しては遠く及ばないと思う。大江健三郎さえ俵万智『サラダ記念日』を認めていた。

例えば俵万智の自己演出の方法として口語短歌の効果的な使い方がある。

太鼓部の音聞きおれば後輩が「こんちはっす」と声をかけてくる
いつかおまえがプロフェッショナルになった時かーちゃんとして出演したし

最初は学校内での愛されキャラとして先輩のイメージ。後の歌は家庭内での「プロフェッショナル」主婦と「かーちゃん」のギャップを自己演出する。その「プロフェッショナル」な部分は歌人としてなのだが、ここでは干し柿作りや老母との関係。そしてデジタル生活から距離を置いた生活。

それでもツイッターで俵万智が朝ドラについてツイートすればニュースにもなるのだ。一方でデジタル生活から切り離した生活を詠みながら、自己アピールのためにはデジタルツールを使いこなす。それはマネージャーとかいるのだろうが。
俵万智が短歌界を盛り上げればメディアも取り上げニュースになるのだ。そしてドキュメンタリーとして一つの番組まで作られる。

その中で興味深い歌は

息子十九「プロフェッショナル」出演の打診すれば秒で断るノンフィクションカメラの朝のパトロール現行犯で今撮られている
かすみ目の不眠の母親が今日の私の不調を見抜く
デジタルの時代に恋は進化せず「心はそばに」という合言葉
「いい人だ、また会いたい」と君が言いディレクターが言う歌はできない
恋の歌するりと逃げて藪の中 三人で見るイルミネーション
定形の枠をとらえる言葉たち蹴りつづければゴール生まれる

その中で特にいいと思った歌は

うたごころ見うしなう夜 うしなって「う」が「し」になって したごころなう

俵万智50首が面白い。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の舞台裏短歌。番組は見てないのだが、予告編で俵万智が地声でこんな所もとるんかよ!とボソッと言った一言が面白かった。短歌による番組の裏側だけどそこに歌人としての意地が感じられる。それでもTV(番組の人)との関係は相聞歌であると歌う。このマイペースさかな。無論それは俵万智という歌人を自己プロデュースしている姿ではある。「短歌のオリジナリティ」で斎藤茂吉とか言っている人は俵万智には敵わないだろうな。短歌の面白さが違う。

【大特集】唯一無二の歌――短歌のオリジナリティ

短歌でオリジナリティを感じるのは啄木、寺山修司、穂村弘の系譜かな。その対抗馬として俵万智がいるという構図か。俵万智はなんだかんだ言ってすごい歌人だと思う。でもそれを論じる人があまりにもいないのがこの特集の駄目なところかな。俵万智とTVがタッグを組んだら無敵な感じがする。

連載

後は連載で過去の歌人に対する興味か。坂井修一「かなしみの歌びとたち…」は「戦争と短歌」で近藤芳美の評伝。

綾部光芳「歌人解剖 〇〇がスゴい!…」は斎藤茂吉。医者で病院長になったのがスゴい!と書いているのかと思ったら不倫して、茂吉の恋文がスゴかった。「私の本質は仏でなく夜叉です」とか。その手紙を焼き捨てるように言ったのだが、明らかにされてしまった。スゴイのは相手か?相手も夜叉だった。



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