俵万智の自己プロデュース力
『短歌 2023年2月号』
作品
何と言ってもこの号は俵万智の【巻頭特別作品50首】だろう。これは先日NHKで放送された俵万智のTVドキュメンタリー「平凡な日常は、油断ならない 〜歌人・俵万智〜」の舞台裏を詠んだ歌だった。残念ながらTVは見てないけど予告編を見た。
そのときふと俵万智がオフレコのように漏らしたドスの効いた声が印象的で、確かこんなところまで撮るのかよ、と言っていたような。TVのドキュメンタリーとは言えNHKだし編集されているのは当然なのだが、その裏側を短歌で詠むという、それは俵万智による三十一文字、50首の編集ということになるだろうか?相聞歌と言っているのが興味深い。
つまり例えば学校の先生としての俵万智の顔がある。それと母親である顔とは違っている。さらに自己演出した歌人としての顔。俵万智は自然のようでいてそうした自己演出が上手い歌人だと思う。だから歌集『サラダ記念日』が異様なベストセラーになるのだし、ほとんどの現代歌人は彼女には世界に対する影響力に関しては遠く及ばないと思う。大江健三郎さえ俵万智『サラダ記念日』を認めていた。
例えば俵万智の自己演出の方法として口語短歌の効果的な使い方がある。
最初は学校内での愛されキャラとして先輩のイメージ。後の歌は家庭内での「プロフェッショナル」主婦と「かーちゃん」のギャップを自己演出する。その「プロフェッショナル」な部分は歌人としてなのだが、ここでは干し柿作りや老母との関係。そしてデジタル生活から距離を置いた生活。
それでもツイッターで俵万智が朝ドラについてツイートすればニュースにもなるのだ。一方でデジタル生活から切り離した生活を詠みながら、自己アピールのためにはデジタルツールを使いこなす。それはマネージャーとかいるのだろうが。
俵万智が短歌界を盛り上げればメディアも取り上げニュースになるのだ。そしてドキュメンタリーとして一つの番組まで作られる。
その中で興味深い歌は
その中で特にいいと思った歌は
俵万智50首が面白い。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の舞台裏短歌。番組は見てないのだが、予告編で俵万智が地声でこんな所もとるんかよ!とボソッと言った一言が面白かった。短歌による番組の裏側だけどそこに歌人としての意地が感じられる。それでもTV(番組の人)との関係は相聞歌であると歌う。このマイペースさかな。無論それは俵万智という歌人を自己プロデュースしている姿ではある。「短歌のオリジナリティ」で斎藤茂吉とか言っている人は俵万智には敵わないだろうな。短歌の面白さが違う。
【大特集】唯一無二の歌――短歌のオリジナリティ
短歌でオリジナリティを感じるのは啄木、寺山修司、穂村弘の系譜かな。その対抗馬として俵万智がいるという構図か。俵万智はなんだかんだ言ってすごい歌人だと思う。でもそれを論じる人があまりにもいないのがこの特集の駄目なところかな。俵万智とTVがタッグを組んだら無敵な感じがする。
連載
後は連載で過去の歌人に対する興味か。坂井修一「かなしみの歌びとたち…」は「戦争と短歌」で近藤芳美の評伝。
綾部光芳「歌人解剖 〇〇がスゴい!…」は斎藤茂吉。医者で病院長になったのがスゴい!と書いているのかと思ったら不倫して、茂吉の恋文がスゴかった。「私の本質は仏でなく夜叉です」とか。その手紙を焼き捨てるように言ったのだが、明らかにされてしまった。スゴイのは相手か?相手も夜叉だった。