とりあえず作品を読んでからだ
『漱石はどう読まれてきたか 』石原千秋(新潮選書)
第一章、同時代とその後の漱石論。同時代的にはけっこう批判的な論評も多かったのはそれまで漱石が小説家ではなく学者(東大の先生)と見られたから、職業作家としてはなんか言いたくなる。第二章、単行本から読む夏目漱石。江藤淳『夏目漱石論』が鉄板で近代の自意識(自我論)からそれを否定すべき「則天去私」へと。その意味付けに反論する形で蓮實重彦『夏目漱石論』は表層批評。石原千秋『反転する漱石』。テクスト論者と著者が言っているように蓮實重彦からの延長からフロイトの精神分析論(家族=反家族)。
著者が嫉妬する若林幹夫『測量士としての漱石』は面白そうだ。第三章、いま漱石はどのように読まれているか。①定説を深める論(普通の読み)②(定説を)読み替える論③文化的歴史的に位置づける論④意味づける論(読み手の勝手な解釈)。その分類方法でバッサバッサ切っていくのだが、フェミニズム、ポスコロは否定的。テキスト論者だからだろう。漱石の文学ではなく(批評家でもないので好き嫌いでいい話だから)、作家論ではなく作品論の方が各作品の読みを深めるには参考になった。(2017/03/22)