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(小説)おおかみ少女・マザー編(四・四)

(四・四)姉妹よ、応答願います
 そんな中でもラヴ子からマザーへと伝わるものは矢張り、ラヴ子の本心!つまり不安、迷い、地球への未練……であった。よってマザーにとっては相変わらず、得体の知れない『胸騒ぎ』でしかなかったのである。
 これは一体何だ?
 マザーはひたすら想いを巡らせた。しかし矢張り胸騒ぎの正体が何なのかは、さっぱり分からなかった。そこで或る時マザーは、フォエバに問うてみたのである。
「フォエバよ」
「どうした、マザー?そんな浮かない顔をして」
「実はな、フォエバ。近頃わたしは妙な胸騒ぎに、取り憑かれているのだ」
「妙な胸騒ぎだと?」
「あゝ。例えば……今にもこの地球が滅亡してしまうのではないか?そんな悲観的、絶望的とも取れる胸騒ぎなのだ」
「ほう、それは穏やかではないな」
「あゝ。もう居ても立っても居られぬ切迫した何かが、わたしを駆り立てるようなのだ」
「そうか、良し分かった」
 そう答えるとフォエバはそのまま目を瞑り、沈思黙考したのである。

 その間マザーは、フォエバを見守った。マザーとフォエバがいるのは、狼山のほら穴の中である。マザーの額には薄っすらと汗。暦は既に六月へと入っていた。
「マザーよ!」
 マザーははっとして我に返った。いつのまにやら、うたた寝に落ちてしまっていたらしい。フォエバの呼び掛けで、マザーは目を覚ました。
「どうした、フォエバよ?」
「あゝ俺は今、見真の術で人間界の様子を眺めていた」
 神戸の街の様子である。
「おお、見真の術。そして人間界か、成る程」
 フォエバの発想に感心するマザー。
「もしも地球が滅びるとしたら、人間たちが何か悪さをしているのではないか?そう思ったのだ」
「流石はフォエバだな、感心感心」
「しかし今の所、人間たちに特に切迫したような様子は、見られなかった」
「ほう」
「天下太平。地球が滅びるなどといった兆候は、微塵も感じられなかったぞ」
「成る程、そうか……」
「強いて言えば……初夏だというのに、人間たちは随分とまだ寒そうな恰好をしていたがな」
「ふむ。ならば一体何であろう?わたしのこの……」
 首を捻るマザーに、フォエバはひとつの助言を与えた。
「マザーよ。俺は人間界の様子を眺めていて、ふと閃いた事があるのだ」
「何だ、フォエバよ?何でも良いから言ってくれ」
「あゝ、おまえのその胸騒ぎというやつだが……もしかしたら例の人間界にいるであろう、おまえの同胞からの、ものなのではあるまいか?」
「何だと!」
「同胞からの何か、切迫した訴えのようなもの、なのではないだろうか?ふと、そんな気がしたのだ」
「成る程、そうか」
 またしてもフォエバに感心しつつ、マザーは想いを至らせた。一時として忘れたことのなかった双児の連れ、フォエバの言う同胞へと……。フォエバは続けた。
「例えば同胞の身に、何か危機が迫っていて、おまえに助けを求めているのかも知れんぞ」
「何!うーん、そうだな……」
 腕を組み、しばしマザーは思案した。そして沈黙を破った。
「フォエバよ!もしかすると、その通りかも知れん。わたしも何だか、そんな気がして来たぞ。この胸騒ぎ!良し、分かった。ありがとう、フォエバよ。恩に着るぞ」

 今度はマザーの番である。マザーは目を瞑り、沈思黙考した。そして意を決するやマザーは、テレパシーを発した。相手は勿論双児の同胞、即ち我等がラヴ子である。
 マザーはテレパシーで、ラヴ子へと呼び掛けてみた。生まれて初めてである。この日本の何処かにいるであろう双児のパートナー、ラヴ子へと……。
「親愛なる我が双児の姉妹であり、かつ我が同志なるきみよ。わたしの想いが届いているなら、どうか答えて欲しい。我がいとしき姉妹、わたしの同胞よ……」
 マザーは一日中呼び掛けた。しかしラヴ子からの返事は無かった。それでもマザーは諦めず、次の日もまた次の日も、ラヴ子への呼び掛けを続けたのであった。
「姉妹よ、応答願います」

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