(詩)抱擁あるいは横浜
まじめなやつはだめだなって
ため息ついている間に
夜が明けたら
ふらっと家を出て
どこか遠くへ行きたいなぁと思いながら
行くあてもなく
始発電車が海岸線を通った時
ああ、船がいいなぁって
横浜で降りて
それから一日中日が暮れるまで
桟橋で外国船を見ていた
けれど勇気がなくて
そのまま雑踏に紛れ
駅前の交番の灯りを見たら
帰りたくなった
少年の頃坊やはまじめでやさしい
男の人になるねって
近所のおばさんたちが言っていたけど
まじめはだめなんだなぁって
まじめなやつがうまくいかない
世の中なんだなぁ
まじめなやつはまっ先に
自分を責めるから
苦しい人を見ると
楽にしてあげたいと思うから
そんなやつはうまく
生きてゆけないような世界なんだなぁ、
ここはさって
交番のすみで
ぽんっとひとつ肩を叩かれて
はっと、目が覚めた気がした
ゆうべ、ねたきりの
だいじなひとをころし、ました
苦しみを抱きしめる方法を教えて下さい
誰かの苦しみを奪い取る抱擁のし方
教えて下さい
おれは幸福より不幸の方が好きだと
強がれる強さを下さい
まじめでも生きられる世界を下さい
苦しくても笑える奇蹟を
下さい
夜が明けたら
ゆっくりゆっくり
歩いてゆくから
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