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(詩)いつか聴いた波音

いつもざわめきが
ふいに都会の
人の足音が途絶えると
さがしてしまう

さがしてしまうのは

ほんの一瞬の沈黙の中に
思い出そうとして
乾いた唇にどうやって
忘れた波音
真似ようとするのか
波音を、それも
もうすでに忘れ果てた

すでにもう失い
悔やむことさえ諦めた
あの

きみと行った海
きみとだけ行った海
きみとだけ行きたかった

ほんの一瞬の記憶の中に
忘れようとして
泣きそうな唇に
どうしても
刻み付けられた波音は

わたしの耳が
沈黙に帰る時だけ
ひりひりと疼くらしい

ひとりぼっちで
きみを諦めた
あの夏を

永久にわたしの心に
悔やませるため
永久に
終わらない波音で
波音のままで

いつか、聴いた波音

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