(小説)おおかみ少女・マザー編(三・十)
(三・十)ラヴ子十二歳(その2)・ 旧人類の友だち
そして小六のクラス替えである。ゆきは勿論旧人類のクラスで、六年八組になった。幸い担任は、吉川ではなかった。
六年は人類クラスが一組から五組、旧人類クラスが六組から八組までの構成で、人類のクラスが二組多かった。
「ゆきちゃん、また同じクラスになったね!」
小二の時同じクラスだった、同じマンションに住む鈴木ミホである。
「うん、そうだね、ミホちゃん!」
嬉しそうに笑うミホに、ゆきも愛想よく微笑み返した。
放課後ゆきとミホは、自宅マンション近くのミナトミライの港で道草した。以前祖父の保雄といつも遊んでいた場所である。その日のゆきは、珍しく憂いを帯びた顔をしていた。昼休み廊下で人類の友だちと立ち話をしていて、通りすがりの教師や生徒から、白い眼で見られてばかりいたからである。しかし最初にぼやいたのは、ミホの方であった。
「八組かあ……。一番ケツだね」
「うん。旧人類組の一番最後!ゆきは問題児だから、ケツに追いやられてもしょうがないけど……」
「ええっ?何でゆきちゃんが、問題児なの?何か悪い事でもしたの?」
桃の実を思わせる紅い頬っぺを膨らませながら、ミホが尋ねた。そのつぶらな瞳に、夕暮れの陽を浴びた海の煌めきが映っている。
「ゆきはね、特別悪い事してるつもりは、全然ないんだけど……。先生たちは、そうは思ってくれないみたい」
「なんで?」
「うん。ゆきはただ、みんなと仲良くしたいだけなのね。人類とか旧人類とか、何それ?って感じ。みんな同じ人間でしょ?て思って。ただ、そう行動してるだけなんだけどなあ……」
「うーん、そうねえ。ナイーブな問題ですなあ……」
腕を組み、考え込むミホ。
「でも流石は、ゆきちゃん!本当はみんな、心ん中じゃそう思ってると思うんだけど、なかなか行動出来ないもん。ゆきちゃん、偉いって、みんな尊敬してるよ!」
「そうかな?」
照れ臭そうに笑うゆき。
「そうだよ。だってみんなやっぱり変な目で見られたり、先生に叱られたりするの嫌だし、怖いもん。だからついつい旧人類同士で、固まっちゃうんだよね、わたしたち。あーあ、やだやだ!人類パスポートなんて、ばっかみたい。ふわーーっ」
両腕を大きく広げ、ミホは大欠伸。
「そうだよね、あれが諸悪の根元だよね。全く誰が考えたの、あんなダサいの?」
ゆきも釣られて大欠伸。そしてふたりは深いため息を零しながら、海に目を移した。
「元町のブティックとかレストランとか、中華街とかさ。わたしたちもう、全然入れないし……」
「だよね!あれこそ差別だよね。何でネットもTVも新聞も、みんな問題にしないんだろ?」
「だからあ!そう言うのみんなもう、完全にあっちに支配されちゃってるんだってよ。しかも年々それが強くなっていくんだから、わたしたちの未来って、ほんとグレー……」
「グレーならまだいいよ、ミホちゃん。実際まっ黒だったりして、アハハハハッ……」
ひとりで爆笑するゆきに、ミホは呆れ顔。
「ふう……。でも寒いね、まじで。ほら!こんなに息、白ーい。もう家帰ろ?」
「だね」
もう春だというのに陽が沈むと、まだまだ冬のような寒さである。潮風に吹かれれば吐く息も白くなる程、港の海は凍り付くような冷たさであった。
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