掌編小説|てっぺん
じわと滲むように、その一部は湿り気を持った。かかる圧が強ければ強いほど、体の奥に潜み機をうかがっていたものは、ここぞとばかり膨張して外に出ようとする。
そんなに圧を高めたら体に悪い。魔物は平気な顔をして皮膚を突き破る。
わからないかなあ。もう、今となっては少しの傷でも治りにくいんだ。
べたべたの体で街を歩きたいかね。醜い破裂を繰り返す体が、煌めく十二月の街にふさわしいと思うかい。そういう美意識の低さ。情けない。
寝ていると思っていた。しんと静まった夜だ。野獣の咆哮が耳をつんざく。
仰向けで見上げていた天井はどこにもない。見えるのは無人のベッド、そこから数十センチ浮き上がっている自分の足先。そして、ドアから顔をのぞかせた君。強烈な眼力。驚いて見上げている。僕を見上げている。その時、ようやく気付いた。叫び声を上げているのは、他の誰でもなく僕自身だった。
静かに、したたかに上昇する。ずっと僕が望んできたことだ。自分に圧をかけ、ようやくここまできた。喜ぶべきだ。それなのに。
上昇する体が天井に達すると、頭頂部に圧を感じた。頭を押さえつけられ、項垂れた。大丈夫。少し俯くくらい、問題ない。
「もうやめて」君は言う。
平気だよ。僕は笑ってみせた。
「もう辞めて」
また、君が言う。今度は泣きそうな声で訴えてくる。
わかっているんだけど。上しか見えない。これは思考の癖だから。
どんどん圧が強まって、天井に押し付けられ折りたたまれた体から醜い汁が溢れ出す。
「もういいよ。もういいから」
もういいから。もういいって。そんなに頑張るなよ。醜いよ。見ていられないよ。だって、首。首がやばいよ。ありえない方に曲がってるよ。怖いよ。そんなになるまでどうして。
聞こえなかったふりをして。限界を知らない。
僕はまだてっぺんを睨んでいる。