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暇とうつはどのように関連する?時間の停滞、コントロール、学習あたりから紐解く。
どうも、あおきです。医学部でコミュニケーション教育と心理学教育を行っている研究者兼心理カウンセラーです。
今日は「暇や退屈がうつやうつ病とどう関係しているのか」を掘り下げていきます。何もすることがない時間や退屈を感じる状態が、なぜ人の心に影響を与えるのでしょうか?その背景を考えてみたいと思います。
まず、暇や退屈という状態について考えてみます。暇とは、特定のタスクや義務がなく、何をするべきかがわからない状態で、退屈とは、何かをしていても興味や充実感を感じられない心理的な状態です。
どちらも「刺激の欠如」が共通しています。人間は日々、周囲から受け取る刺激に反応して感情や行動を起こしますが、その刺激が不足すると、ポジティブな感情を引き起こすきっかけが減ってしまいます。これが続くと、気分の低下や、興味や喜びを感じる能力が徐々に衰えてしまうことがあります。
仕事が忙しいとき、私たちは多くの刺激を受けています。
タスクに追われ、同僚や上司とのやり取りがあり、日々の小さな成功や進展を感じる機会が多いのです。もちろん、過度な忙しさはストレスを招きますが、適度な仕事量はポジティブな感情を生むきっかけを提供してくれます。
一方で、暇な状態が続くと、この刺激が一気に減少します。すると、相対的にポジティブな感情が湧きにくくなり、日常に充実感を見出しにくくなるのです。このような環境が長く続くと、自己評価の低下や無力感が強まり、うつ状態に繋がりやすくなります。
暇や退屈がもたらすもう一つの問題は、人が「自分自身の内側」に向かいやすくなることです。
仕事や趣味など外部の活動に集中しているとき、人は外の世界との関わりを通じて自己を確認しています。
しかし暇や退屈を感じると、自然と内省が深まります。この内省が、過去の失敗や自分の欠点ばかりに焦点を当てるようになると、反芻思考と呼ばれる負のループに陥ります。
この思考のクセは、自己批判的な見方を強化し、気分の低下を加速させます。
さらに暇や退屈が続くと、行動を起こす意欲そのものが弱くなりやすいです。
これは学習性無力感と呼ばれる現象と関連しています。学習性無力感とは、「何をしても状況が変わらない」と感じる状態を指します。
特に暇な時間が長いと、「何をしても暇や退屈は解消されない」と感じてしまうことがあります。この状態に陥ると、行動を起こす意欲が低下し、さらに無気力になりやすくなるのです。
また、セルフコントロールの低下も暇や退屈が引き起こす大きな問題です。
私たちは日々、目標を立てたり、計画を実行したりする中で自己を律しています。しかし暇な時間が続くと、生活にリズムがなくなり、セルフコントロールが崩れやすくなります。
たとえば、「今日やろうと思っていたこと」を先延ばしにするクセがつくと、それが積み重なり、「自分には計画を実行する力がない」と感じるようになることがあります。
この感覚が自己評価の低下につながり、うつ的な気分を引き起こしやすくなります。
さらに、暇や退屈がもたらす「時間の停滞感」も重要なポイントです。
忙しいとき、時間はあっという間に過ぎていきますが、暇な時間は「止まったように」感じられます。この時間の停滞感が強まると、「自分が人生の中で動けない存在」であるように感じることがあります。
この感覚が繰り返されると、自己効力感が低下し、自分の人生をコントロールできていないと感じる無力感が強くなります。
こうした背景を考えると、暇や退屈という一見無害に見える状態が、実際には人間の心に大きな影響を与えることがわかります。
刺激が少ないことでポジティブな感情が起こりにくくなり、内省の中で反芻思考が強まる。そして行動意欲が低下し、自己評価が下がるという負のスパイラルが生じやすくなるのです。
暇や退屈がどのように自分に影響を与えているかを見つめ直すことは、心の健康を守るための第一歩となるでしょう。
この記事は暇と退屈の倫理学を読んで影響を受けて書いたものです。こちらも合わせて読んでね。
それでは最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!