雪のち桜【終わりと始まり】
バスを降りると、雪が散らついていた。
とぼとぼと、歩き出す。
大きなバックの紐が肩に食い込む。
「重いな……」
頭と頬に、雪がへばりつく。
「冷たいな……」
下ばかり向いて歩いてきたから、どの道を通ってきたか忘れてしまった。
「でも、いいや。帰り道なんて分からなくても」
気がつくと、目の前に大きな建造物があった。
「あ、病院についた」
「しばらく、ここで暮らすんだな」
無表情な言葉だけが、頭に浮かんでは消えていく。
ただ、世界が灰色に見えていた。
真っ白い雪が降っているというのに。
☆
受付を済ませ、病室へ。
入院中の注意事項を聞いた後、すぐに点滴の用意をすると伝えられた。
腸の病気に加えて、別の感染症にもかかってしまい、腸の出血、肝機能低下、脾臓も数倍に腫れているとのこと。
身体中のリンパ節が腫れて、苦しかった。
「わたし、どうなっちゃうんだろう」
花の女子大生の時間が終わりをつげる。
終了の鐘が鳴っている。
絶望……
☆
入院生活は、何もすることがなかった。
絶食なので、食事の楽しみもない。イヤホンでテレビを見ていても、耳がすぐに痛くなった。
本を読んでいても、疲れてしまって横になる。
だからといって、ずっと寝られるはずもなかった。
恋人ができたばかりだというのに。
好きで好きでたまらない人と、楽しい時間を過ごせると思ったのに。
「別れを告げられるかな」
「私から別れようかな」
「悲しすぎる」
「夢じゃないよね」
繰り返される思考に
ただ、ひたすらに涙が流れる。
何度、目を閉じて、開いても
ボヤける視界の先に、「ポタッ、ポタッ」と落ち続ける点滴。
止められない現実。
滴る液体に呼応するように
底がない闇に、ゆっくりと確実に
私は、落ちていった。
つづく。
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