【美術レポ】消えるモノの証を探る――GEN「聖 hijiri」
東京都町田市、鶴川駅から徒歩15分の自然の中にあるオルタナティブ掘っ立て小屋≪ナミイタ Nami Ita≫にて、友人のGENによる個展が開かれているというので行ってみた。
1 アーティストプロフィール
GEN
2000年神奈川県小田原市生まれ。2023年に和光大学経済経営学部経済学科を卒業。2019年から火の痕跡をテーマに炎を使った作品を制作。経済学科にいながら何故か芸術学科のゼミを専攻し、卒業制作展に77本の丸太を持参し参加。在学中に学内展示『サトヤマアートサンポin岡上2021・2022』に出展。また、2022年には「Sound Art Museum at spread」にてサウンドアート作品を発表。焚き火中毒者。
グループ展
2021・2022|サトヤマアートサンポin岡上2021・2022
2022|“Sound Art Museum Spread”~様々な音が交差する実験的かつ、体験
型インスタレーション展~
2023|和光大学表現学部芸術学科卒業制作展2023『はなればなれハレバレ』
SNS
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2.存在証明
<存在証明>とはなにか。
人が死んだとしても、過去にそこにいた証明が成されていなかったら、その人は存在していたとは言えないのではないだろうか。それ故に人々は死人を弔い、儀式を行い、墓石に名前を刻んでその人がいたという<存在証明>をするのではないだろうか。
「人や動物は、その場から移動する際何かしらの痕跡を残す。」とGENは述べているが、人間の人生における最後の痕跡は墓石なのかもしれない。
考えてみれば、日本の葬式、いわゆる<火葬>[1]というものはGENの作品に近しいものなのかもしれない。そう確信したのは、GENの以下の作品だ。
以前、木や畳を燃やして作品を制作していたGENにしては珍しい平面の作品だ。
GEN曰く、在籍する和光大学において捨てられるはずだったキャンバスを用いて制作したのだと言う。見知らぬ他人の失敗作を白い絵の具で塗りつぶしてからナイフで裂き、火をつけて制作した。
「まるで埋葬だ」と私は思った。
「捨てられる=死ぬ」はずだった作品が、GENによってこの世に残る痕跡にされたのだ。その痕跡こそが、私には墓場に思えたのだ。
捨てられ、焼却炉で跡形もなくなるはずだったキャンバスたちにとって、GENの作品としてギャラリーに並ぶことはいかほどの幸福だろうか。
よく見ると火が燃えた痕跡である煙が跡を残す。
四方八方に動いた痕跡もあれば、一か所に偏った痕跡もある。
歴史というものも記された文書によって国や人物の生きた証を示す。細かく記されれば記されるほど、我々は鮮明に歴史的事象や歴史的人物に思いをはせることができる。反対に、書き記されていない事象については想像で埋め合わせたり、時には理想を押し付けたりする。
この痕跡は歴史と言ってもいい。火にとっての軌跡や轍と言ってもいい。「その痕跡こそ、その場に存在していた証明」とは、まさにこのことを指しているのではないだろうか。
[1] 日本において火葬は義務付けられていないが、ほとんどの自治体は条例で土葬を制限しているため、ここでは「日本の葬式=火葬」とした。
3.神聖なる『聖者』
GENの代名詞とも言っていい、木を燃やしたアート作品『聖者』シリーズ。
<聖者>と聞きどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。
イメージは様々であると思うが、私は宗教に忠実で優れている信仰者というイメージを持つ。というのも、前述した葬るという行為も宗教による儀式であることが多いし、聖者によって行われる。この作品もやはり宗教的な、しかも極めて神聖なモノのメタファーに「火」を当てているのではないだろうか。もしかすると、GENにとって燃やすという行為は儀式であり、火に対する信仰行為をしているのではないだろうか。
同時に、GENと作品を模索した私にとっても、火は信仰に値する対象であるようにも思えてくる。最も人類は火の発見によって発展したのだから、我々にとって火は神同類のものであるのかもしれない。GENのように火の痕跡を残そうとしなければ存在を認知できないといった点でも、火は神と同じ要素を持つ。現代の我々は、火が当たり前にあるがゆえに、火の神聖さを忘れているのではなかろうか。
これからGENがどのような火を我々に見せてくれるのか、非常に楽しみである。
4.予告
次回GENが参加するグループ展を紹介します。
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5.おまけ
ドネーションの特典として、『ミニ聖者』(勝手に命名)を頂きました。非常にレア。自宅デスクに飾っています。
今回紹介しきれなかった作品。こちらは<時空>を感じさせる作品です。
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