FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
黍国では前国王の浦島鳴(うらしまなり)の死去が発表され、副王だった賈智陽(かじやん)が新国王に就いた。賈国王は国防に力を注ぎ、体制を整えていく。
そんな中、ヒヌカ連合あらため『ヤハト国』は黍国へ第二次侵攻を開始する。主要4拠点に一斉総攻撃を仕掛けたのである。
その混乱に乗じて、佐々孟利や八女天主らが賈体制へのクーデターを画策する。『ヤハト国』軍より先に賈国王の首を獲るために結成された、若いメンバーだけの少数部隊「団子」が新山城に到達。
しかし国王の間に賈国王はいなかった。
～第29話 追走～
「団子」の面々は古びた倉庫に潜伏していた。王の間で賈国王の暗殺を狙ったが、賈国王は既に去っており失敗に終わった。裏門をはじめ幾つかの場所に侵入の時の痕跡を残しており隠れる必要があった。佐田阿是彦の案内でここに隠れている。
城兵も異変に気付きはじめ、暫くすると敵侵入との情報が行き渡り慌ただしくなった。隠れている古倉庫辺りにも捜索の兵が頻繁に現れる。「団子」はその度に息を潜め、現在までやり過ごしていた。
しかし、このまま逃げ戻ることも出来ない。ヤハト国より先に賈国王の首を獲ることが至上任務である。経過した日数からして、麒麟の様なヤハト国軍が着実に近付いていることは予想できた。急がねばならない。
今は少しでも情報が欲しい。そう思っていると不意に古倉庫に人が入ってきた。「団子」は柱や物の陰に隠れたまま身構える。
「さ～。さっさと出てこい。」
聞き覚えのある声と喋り方。千田雨根彦である。味方だと分かり隠れていた場所から出て来て雨根彦に前に集まった。
「さ～。賈国王だが崔泰烏と一緒に楯築陣に移ったぞ。さ～。指揮を高めるためなのか作戦なのかは知らんがな。」
ターゲットである賈国王の居場所が判明した。もう一度暗殺に挑戦できるチャンスである。
「楯築軍の様子は？」
仍利が質問するが、雨根彦はいつものように自分の伝えたいことだけを喋る。
「さ～。急げ。賈国王は昨日から移動しているぞ。こっちの始末はやっておく。」
ヤハト国軍と対峙する最前線に賈国王が赴いたというのであれば、とにかく急ぐ必要がある。何をどうやって暗殺するかは行ってからの状況次第だろう。
「雨根彦殿、恩に着る。」
武主実がお礼を言うと普段は返答しない雨根彦が返した。
「さ～。ワシらは同じ目的で動いておる。さ～。急げ。ワシは阿是彦と二人で城内を制圧する。」
いつも真顔で淡々と仕事をする雨根彦とも心が繋がっていることを感じて少し嬉しくなった。
その後、「団子」は阿是彦の手引きにより上手く新山城を脱出。楯築軍に接近していた。ヤハト国軍は少し離れた位置に布陣している。対峙しているのは、少し前まで戦っていた播磨宇鹿軍ではなく伊世李軍である。驚異的な速度で伊世李軍が迫っていた。
そして楯築軍の方は、賈国王兵と崔泰烏兵が合流し大軍となっていた。もともと楯築軍にいた富田隊と片岡隊が見当たらない。それは「団子」側からしたら予定通り。同時進行の計画が進められていた。「団子」は情報収集のため、楯築兵と偽り賈国王軍に潜りむ。元々味方なので違和感は無い。
仍利が若い兵士に話しかける。
「どうだい こっちの様子は？」
「大きな戦いになりそうだ。でも我らには賈国王様がいらっしゃる。皆、黍国そして賈国王様のために力が漲ってるぞ。」
「今回は賈国王様まで来てらっしゃるからなー。そういえば賈国王様はどこで指揮をとられているんだ？」
「何を言ってる？指揮をとっておられるのは崔様だろう？賈国王様は日射山におられる。」
「すまぬ、すまぬ。言い方を間違えた。もちろん指揮をとられているのは崔様だ。」
「団子」は静かに日射山に移動を開始した。その後間もなくして伊世李軍は総攻撃を仕掛ける。崔泰烏の謀略も伊世李軍の勢いの前に機能できずにいた。
堅守で有名な楯築軍は盾隊を前面に備え、徹底抗戦となる。これが歴史的にも有名な「楯築の盾壁」と言われた戦いである。
楯築軍が時間を作り崔軍の再編成を行い、もう一度攻撃を仕掛ける算段だ。まさに攻めの崔、守りの楯築である。
「団子」は無事に賈国王の陣にたどり着いていた。ここから先は潜入は通用しない。国王直属の兵団であるがため、顔を知らない味方がいるとは考えづらい。
そのため「団子」は別の作戦をとった。
富田真臣と片岡太練が囮になって騒ぎを起こしているうちに、残りのメンバーが一気に賈国王の首を狙う作戦だ。賈国王の正確な居場所が分からず、夜闇での実行は難しいと考え日の出とともに決行となった。
幸運なことに食糧庫が目立つ場所にあり、事前に目星をつけることができた。真臣と太練は食糧庫に火矢を放ち騒ぎを起こすために接近する。木陰に隠れながらじわりと進む。
そこに用を足しに歩いてきた賈兵士が現れた。火がついた矢が朝には良く目立つ。
みつかってしまった！