死ぬほど寒い道東で流氷に乗ってきた【道東-20℃紀行録 #2】
僕らは昨日の夜、真っ暗な道路を通り抜けて知床半島のウトロ地区へやってきた。国道334号線に街灯は無く、心細い気持ちを抱えながらようやく見えた街の灯りがウトロだった。
バスに乗っている間、皆は爆睡していたが、僕はイヤホンで音楽を聴きながら今日のことを振り返っていた。朝4時半に目覚ましをかけて札幌駅に集合したこと。わずか45分のフライトを楽しんだこと。入れ食い状態のワカサギ釣りをしたこと。流氷が砕ける様子を間近で見たこと。どれも今日のことなんだなと、にわかには信じられない面持ちだった。
#死ぬほど寒い道東旅行 2日目
午前6時、目覚めとともにカーテンを開ける。そこには真っ白な海が広がっていた。
ホテルの目の前は港になっていて、網走よりも流氷は陸に迫っていた。
ウトロ地区は日本の中でも緯度が高く東側に山地が広がるため、日の出が7:00過ぎと遅い。この日も日の光だけが雲に当たっていた。
今日は知床半島で1日を過ごす。あらかじめ予約していたツアーに参加するため、道の駅うとろ・シリエトクへ歩いて向かう。
シリエトクというのは、知床という地名の由来となったアイヌ語であり、「大地の突端」という意味である。
オホーツク地域にはアイヌ文化が花開く以前から独自の文化「オホーツク文化」があったとされ、知床はその時代から他の北方民族との交易拠点だった。「ここ知床から北海道の大地が始まるのだ」ということが、地名からも読み取れる。
ウトロも同じくアイヌ語が由来の地名で、「間を我々が通る場所」という意味だそう。ウトロ地区は断崖絶壁にあり、海から突出した巨岩と山々の間を進んだからと考えられている。
僕らが道の駅に着いたタイミングでちょうどハイエースがやってきた。これに乗ってウトロより奥にある知床五湖へ向かう。
道の途中でゲートを越える。知床峠周辺は冬季通行止になっていて、特別な許可がなければ立ち入ることは出来ない。
ゲートの先でスノーシューと呼ばれる特殊な靴のようなものを履く。現代的なかんじきで、深い雪でも歩きやすくなるらしい。
フカフカの雪をかき分けながら、知床五湖の奥深くへと歩みを進めていく。
木の幹にはヒグマの爪痕が残っていた。
自分達が大自然の中にいることを実感する。
進んでいくうちに広い雪原へと出た。
ここは夏の間には深い青色となって木々を水面に映す湖である。冬になると氷が張り、真っ白な雪が一面に積もるのだ。
写真の二湖は知床五湖で最も面積が広く、中心部には小さな島がある。思っているより氷の厚さは無いらしく、道を誤ると湖に落ちるらしい。僕らはほんの少し慎重に歩く。
一湖周辺には高架木道があった。夏の期間はこのように整備された遊歩道しか歩くことは許可されておらず、このようにある程度自由性を持って知床五湖を散策できるのも冬の醍醐味だ。
僕らは真っ白で雄大な原生林に驚きを覚えながらスタート地点へと戻ってきた。ここでしか見られない景色に満足した僕らは、再びハイエースに乗り込んで下山する。
途中でキタキツネに遭遇した。キタキツネ自体は札幌市内でも見られるが、車が来ても一切動じずにいる姿に野生を感じた。
昼ごはんは待ち合わせ地点だった道の駅うとろ・シリエトクで食べることに。道の駅うとろ・シリエトクは北海道でも満足度の高い道の駅らしく、内部はショップ、レストラン、知床についての情報など非常に充実していた。
レストランのメニューも知床らしいものばかりで迷ったが、僕が選んだのは知床地鶏のスープカレー。ホロホロと崩れる柔らかい地鶏とほどよい辛さが食欲を増進して、美味しく平らげることが出来た。
一度ホテルに戻って休憩を取る。この旅で2泊したいるかホテルさんには何度か送迎をお願いして快く引き受けて下さった。部屋も広々としていて、窓からはオホーツク海が一望できるロケーションと最高だった。
知床で泊まりたいけどお金はあんまりないという僕ら大学生のような人にぜひおすすめしたい。
15:30頃、再び道のうとろ・シリエトクに戻り、再びツアーの車に乗り込む。次に向かうのは流氷の上だ。
ウトロでは流氷が接岸するため、インストラクター同伴のもとで流氷の上に乗ることが出来る。
僕は行程を計画した時から、流氷ウォークがこの旅一番の目玉と考えていた。ウトロ以外でこの体験はほぼ出来ないし、北海道に来たなら尚更北海道らしいことがしたいと思っていた僕にぴったりの体験である。
岸で特殊なドライスーツに着替えて、いざ流氷へ向かう。
しかし、岸に流氷が着いていない。どれも岸から5mくらい離れている。
結果、僕らは初手から極寒の海を渡ることになった。しかし、腰まで海に浸かるが全く寒さを感じない。むしろ暖かいと思えるほどにスーツは有能だった。
安定した流氷にたどり着いた所でスマホを受け取り数枚写真を撮る。景色はまるで地球ではない惑星のようなSF感があった。
まるで不時着したかのような風景だ。雲が広がると水平線さえも曖昧になる。
ちなみに薄い氷に見えても意外と割れなかったりするのだが、割れるときはしっかり割れる。
僕は体重が軽いのでドボンすることは無かったが、一般的な男性の場合ほぼ必ずと言って良いほど冷たい海に落ちていた。これは一番落ちていた友達。
ここでしか体験できない楽しさを味わっているうちに、約1時間の流氷ウォークはあっという間に終わってしまった。
行きと同じように海を渡り、ドライスーツを脱いでウトロ市街へ戻る。
昨日閉まっていたラーメン屋「波飛沫」が今日は開いていたので、夜ご飯はここで食べることにした。ミシュランにも載っている名店のようで、とろけるチャーシューが絶品だった。
晩ごはんを食べているうちにすっかり日が沈んだウトロだが、今日は夜にも行きたい場所があった。
昨日の夜、ホテルに貼られていた紙で知ったのだが、今の季節は知床流氷フェスなるものが開催されているらしい。
このバスに乗って会場へと向かうことにした。冬道なのでこんな道運転したくないなぁとか思っていたが、僕は3日後に冬道をしっかり運転することになる。更に言うとこの記事を公開した2日後も冬道運転が待っている。
会場には氷で作られた巨大な建造物があった。支笏湖の氷濤まつりよりも内部が複雑で、自分がどこにいるのか把握できないほどだった。
氷の造形が長期間に渡って見られるのは、真冬日が続く北海道ならではのことであり他地域では難しい。氷ならではの透過感がライトアップに華を添えている。
摩擦係数極小の氷のすべり台などで一通り楽しんだあと、僕らは再びいるかホテルへと戻る。本当はもう少し会場にいたかったのだが、残念なことにバスが1本しかなく、逃すと大変なことになるのは目に見えていたので仕方ない。
ホテルでシャワーを浴びてその後少し駄弁ったが、疲れで猛烈な眠気が襲ってくるのでおとなしく眠ることにした。
ここまで2日間とは思えないほど充実した旅になったなぁ、とこの記事を書きながら思う。1日半前はまだ札幌にいたのに、網走に来てからワカサギを釣ったり、監獄を見たり、おーろら号に乗ったり、知床五湖を見たり、流氷を見たり、氷のすべり台で遊んだり...
僕が旅の計画を練っていたとき以上に充実している。旅は自分の予想を超えてくるからやめられないなと思うのだ。
翌日が最終日、僕らは釧路に移動するのだが、最後まで僕らには旅らしいことがハプニングを含めて続くようだ...
続く
▽死ぬほど寒い道東旅行 最終日
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