月刊読んだ本【2024.12】
アルジャーノンに花束を
ダニエル・キイス/小尾芙佐 訳 (ハヤカワ文庫)
まず翻訳がすごすぎる。知能の低い状態の文章の表現がうますぎるし、徐々に知能が高くなってどんどん文章も洗練されていく。もちろん原語の表現がすごいのだろうけれど、日本語でそれを表現するのはまた別種の難しさがあるだろう。日本語の場合はわざとひらがなで書くことで漢字を知らない子ども感を表現できるのは有利なのかもしれない。その場合も、もとの英語との表記ゆれがないようにチェックしているのだろうと思うと大変な作業だ。英語で同じスペルミスをしているところは日本語でも同じように間違っていないといけない。全てそういう風に翻訳しているのかは不明だが。
チャーリイはまるで自分のことのようで苦しくなる。そういうシーンがある。じゃあやっぱり僕も人間なのだ。チャーリイも人間なのだ。そんなこと当たり前じゃないか。他人に笑われてもだれも助けてはくれなかった。ただ一人の人間として扱ってほしいだけなのに。この物語の最大の悲劇はわずか半年足らず出来事だということだろう。アルジャーノンに花をそなえてというある種の遺言は、チャーリイの優しさの証で、彼が人間であるとしめす言葉だろう。誰にもそういう心があればいいのに。
リア王
シェイクスピア/福田恆存 訳 (新潮文庫)
四大悲劇はこれですべて読んだけれど、これが一番難解だった。もう一回読まないと理解できないように思う。自分を偽って別人を演じている人がいるし、それに対して顔見知りのはずなのになにも言わなくてどういうことなの。そしてみんな死にすぎでは。道化の存在がリア王を道化に見せていて滑稽な王という悲劇を引き立たせる。
オレンジだけが果物じゃない
ジャネット・ウィンターソン/岸本佐知子 訳 (白水Uブックス)
めっちゃ面白い。笑ってしまうけれど、笑ってはいけないんだよな。狂った母親に育てられた著者の自伝的小説を、こうもコメディタッチに描けるものか。もちろんこれはフィクションなので、実際のところはどうなのかわからないけれど。面白いのは翻訳の言葉選びのおかげもあるのだろうなと思う。堅苦しい翻訳だと本作の魅力は伝わらないものな。
学校の先生の名前がヴァーチュー(virtue)なのは笑わせにきていて面白い。
絶景本棚3
(本の雑誌社)
他人の本棚を見るのは楽しい。
本棚には個性が出るよね。どんな本棚を使うのか。どんな風に並べるのか。つい、憧れてしまう。
ニュートン式超図解 最強に面白い!! 脳
久保健一郎 監修 (ニュートンプレス)
極限大地 地質学者、人跡未踏のグリーンランドをゆく
ウィリアム・グラスリー 著/小坂恵理 訳 (築地書館)
グリーンランドのことなんて考えたことなかった。
ほとんど氷で寒すぎて未知の世界なことはわかった。かつて大陸が衝突して巨大山脈があったんじゃないかという仮説を調べている話だが、本書の主眼はそこよりも地質学者がグリーンランドを探検する様にある。過酷だけれど、そこでしか得られない体験があると思うと行ってみたくもある。本当の自然がそこには残っていて、原初の地球の姿を著者は見て取る。感傷的でドラマチックに自然と人間存在を描いている。調査の結果、仮説を推し進める有力な手がかりは手に入ったかもしれないけれど、明確な答えのようなものはない。本書にそういったものを求めている人は拍子抜けするかもしれない。ただ自然の美しさを読み取るのだ。
暗号の子
宮内悠介 (文藝春秋)
暗号通貨やSNSといった現代のテクノロジーを題材にしているけれど、こうじゃなかった世界がそこには描かれていて、そうなっていた危うさも少し感じる。そこにはツイッターがツイッターのままだった世界があるのかもしれない。でもそこには現実に起こることのある社会問題が描かれていて、現代社会を生きるしんどさがある。自分にとってはフィクションに思えないという人もいるはずだ。フィクションの中だけに留めておけたなら、荒唐無稽なディストピア小説だったのに。現実ではそれを上回ることがある。インターネットの情報よりフィクションの物語のほうがあたたかみがあるって僕は知っている。
課題図書【高等学校の部】
上記記事に文字数の都合で書ききれなかった感想等をここに書く、と言いたいところだけれど特にないですね。
ひとこと
読書の冬。