「読書って超セクシー」:Z世代の、紙の本と図書館への回帰
【翻訳記事】
Text by Chloe Mac Donnell; The Guardian
Fri 9 Feb 202
彼らはスキニージーンズを駆逐し、ミレニアル世代がサイド分けのヘアスタイルをするのを恥じらわせ続けている。彼らは泣き顔の絵文字を爆笑の意で使うのは恥ずかしいと考えている。
しかし、Z世代の驚きのどんでん返しが今訪れている。1997年から2012年の間に生まれた彼らが熱烈に支持しようとする習慣の一つは、読書だ(One habit that those born between 1997 and 2012 are keen to endorse is reading)。それも親指で読み進めていくデジタルブックではなく、紙の本の。
今週、22歳のモデル、カイア・ガーバーは彼女がオーナーとなる読書クラブ「ライブラリー・サイエンス」をローンチした。
有名モデルである彼女の母親、シンディ・クロフォードと並んで2024年2月の英国版Vogueの表紙を飾ったガーバーは、その読書クラブを「本をシェアしたり、新鋭のライターを取り上げたり、憧れのアーティストを招いて対話をしたり、文学に色めき立つ私のような人々のコミュニティーを作り続けてくようなプラットフォーム」なのだと表現する。
「私は本をこよなく愛しているの(Books have always been the great love of my life)」
彼女は付け加える。
「読書って超セクシー」
ガーバーだけではない。昨年、英国では過去最高水準となる6億6,900万部もの紙の本が売れた。
ニールセン・ブックデータ社の調査は、2021年から2022年におけるZ世代の購買者の80%が、紙面に刷られた本を好んでいることを浮き彫りにしている。
※訳注:おそらく次の調査 https://nielsenbook.co.uk/books-vs-booktok-understanding-the-reading-habits-of-young-adults/
図書館でもまた、うるさいコーヒーショップではなく静けさをより好むZ世代の利用が増加の兆しにあることが報告されている。英国国内での来館者は71%増えた。
BookTokチャート――熱心な本好きたちがお薦めを投稿するTikTokのコンテンツ――では、コリーン・フーヴァーらのファンタジーや恋愛モノが上位を占める一方で、Z世代が読むジャンルは多岐にわたる。
「Z世代が読む本の範囲は驚くほど広いんです」
とはハリ・ブラウンの弁だ。28歳の彼女はTikTokの人気アカウント「Books on the Bedside」の共同管理者で、彼女らのアカウントはもっぱらZ世代の読書習慣に貢献している(a popular TikTok account dedicated to gen Z reading habits)。彼女は語る。
「特に、文学小説、回想録、翻訳小説、古典モノへの評価が高いですね」
ガーバーの最初の文学界のゲストはイラン系米国人ライターであるカーヴェ・アクバルだった。彼はビデオ通話でガーバーに合流すると、ジョーン・ディディドンやジア・トレンティーノをといったお薦め書籍を集めたキュレーションサイト、「ライブラリー・サイエンス」上で自身のデビュー作「Martyr!」について論じた(who joined the model on a video call to discuss his debut novel, Martyr! On the Library Science site, a curated collection of recommended reads include Joan Didion and Jia Tolentino)。
「hot girl booksやsad girl booksなど、Z世代の本の世界にはサブカルチャー的な要素があるんです。」
とブラウンは説明する。
「大まかには少女らしさや女性らしさに何らかの関わりがあり、文学小説と回想録に偏っています」
モデルで28歳のケンダル・ジェンナーが非公式的にこの新しい文学少女クラブの顔となったのは2019年、コート・ダジュール沖のヨットの上で、身体の産業化、単なるモノとして扱うことについて思索したチェルシー・ハドソンのエッセイ集、「Tonight I’m Someone Else」を読んでいるところを写真に撮られてからだ。ジェンナーの持つ本は緑色のポストイットで埋め尽くされていた。
彼女の姿は南仏のプールサイドでも捉えられている。ミランダ・ジュライの「No One Belongs Here More Than You」を傍らに、ダーシー・ワイルダーの悲しみと不安を探索した著書「Literally Show Me a Healthy Person」を読むところを。ハドソンの本とワイルダーの本は、彼女の写真が公開されてから24時間も経たずしてAmazonから売り切れた。
「全体的に思弁小説や恋愛モノ、ファンタジーの増加などに現実逃避の動きを見て取れますが、私はZ世代を過度に一般化し彼らを軽い読み物しか読まないと断言するのは間違いだと思います。(“Overall we are seeing a move towards escapism through the rise in speculative fiction, romance and fantasy, but I think it would be a mistake to homogenise gen Z and say they’re reading lighter,”)」
作家にして出版エージェントのアビゲール・バーグストロームは言う。
「飽和状態で騒々しい開拓時代のデジタル環境にあり、特にこと特定の分野における専門家であったり権威に関して、彼らははまた高い水準のものを欲しているのです。(“With the oversaturation and noise of the wild west digital landscape, they are also demanding higher standards, especially when it comes to the authority and expertise of a writer on a particular subject.”)」
「sad gril」のジャンルはなにも悩める女性に限られたものではない。歌手のハリー・スタイルズはDidionを持ち歩いているところを写されたし、一方で俳優の「読書習慣」としてはティモシー・シャラメ(28)とジェイコブ・エロルディ(26)は、ブロンテ兄弟のあだ名を授かった。シャラメがドフトエフスキの「罪と罰」をお気に入りの本の一冊に挙げたのに対し、ソルトバーンのスター俳優は昨年10月、「プライマ・フェイシィ」の文庫本――性的虐待と法制度を探求したスージー・ミラーの演劇をもとにした小説――を持っていることころを撮られた。
ジェンナーとエロルディの画像が拡散すると、ネット上では我々はパフォーマンス的な読書の時代に突入したのかという議論が巻き起こった(there was a stream of online discourse stating we had entered an era of performative reading)。その他にもネットミームはいつだって、同質的なクラインブルーの表紙で有名になった独立系の出版社、フィッツカラルド・エディションの読者たちを嘲笑う。
ブラウンはこの手の議論は好きではないと語る。
「どちらのサイドも本の世界を探求したいと切に願っているのであれば、彼らがこのようなやり方で口を閉ざさざるを得ないのは適当ではありません。だって、彼らは素晴らしいですし、あるいはネット上での強大な存在感を持っているのですから。(I think if they’re both keen to explore the world of reading, they shouldn’t be shut down in this way because they’re beautiful or have large internet presences.)」
志を同じくする人々(like-minded people)とコミュニティーを作って読んでいきたいと思える出版物があることを、読書クラブは示唆しているそれは決して悪いことではないだろう。
それでより多くの人が読んでくれるのであれば、本望なのだ。
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