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1番じゃなかった人の話(鬱)
①1番好きな人
その日、授業が全部終わって私は片付けをしていた。
帰宅ムードに包まれてガヤガヤしている教室。
その教室の真ん中で、突然女の子が私に聞いた。
「私が1番好きな人、誰かわかる?」
ええ…、、、急に何この質問。困る。
どうして私にそんなこと聞くの?と思った。
彼女と仲良しの女の子を思い浮かべて、
「○○ちゃん?」と私は答えた。
「違う」と彼女は首を振る。
「じゃあ、××ちゃん?」と私は再度答えた。
「いや、違う」とまた彼女は首を振る。
うーん……と私が考えあぐねていると、
彼女が私を指して正解を教えてくれた。
「一番好きなのは、あなただよ。」と。
私は???となった。
混乱したし、困惑した。
冗談でしょと思った。
頭の片隅でちょっとばかり想像していた回答だったけど、まさかその通りになるとは思ってもみなかった。「私?」「本当に?」と聞き返してみたら、彼女はコクンと頷いた。そして、とりとめのない会話を交わして、帰りの準備をしてお互い家に帰った。
しばらくは、彼女の1番好きな人がどうして私なんだろう…と考えていた。彼女は人気者だし、私よりも仲が良い友達が居るのに、なぜ私なのか…。1番好きという割には、日常での彼女の私に対する好意は薄かったような気がして、少し悲しくもあった。彼女にとっての「1番好き」は、この程度なのか…と思いながら、私は他の人と楽しそうにしている彼女を見ていた。もう忘れているんだろうな…。
ねえ、私は1番なんかじゃないよ。その時は本当に私のことを1番好きでいてくれたのかもしれないけど、次第に見向きもしなくなっていったじゃん…。気まぐれで簡単に好きって言わないで。好きって言ってもらえて嬉しくはあったけど、違和感もすごかったから…。1番好きって、何なの?そんなの嘘だよ。。。私のこと、どうして1番にしてくれたの?
②テストで1番になれなかった
私は凡人だった。何に関しても得意なことなんてなかったし、とにかく自信がなかった。やりたいことも特になかったから、とりあえず勉強してた。そしたら、テストで点が取れたから、いつの間にか頭良いキャラとして扱われるようになった。簡単なテストばっかりだから、誰でも勉強すれば点が取れて当たり前なのに…。私は最初から決して頭が良くなかった。ただやっただけであって、それに結果がうまく伴っただけなんだ。
でも、私はテストの順位を気にするようになった。自分の立ち位置によって、自分の価値が決まるような気がしてしまっていた。負けず嫌いだったから、頂点まで上り詰めてみたかった。上に行くことで下を見て安心したかったんだと思う。上に行けば行くほど、下を見下ろしたときの景色は恐ろしく怖いほどに綺麗だから。
大抵の先生は自分が作ったテストで、一番高得点を取った人に注目しているようだった。まあ、確かに気になるものだと思う。でも、私の点数が高くなかった時の、先生のあからさまに落胆したような態度に私は傷ついたことがあった。先生は、テストの点が高い私のことが好きなのであって、そうじゃない結果が出せない私のことは好きではないのだろうな…と感じていた。
私はいつも2番目か3番目くらいだった。いくら頑張っても、学年でなかなか1番にはなれなかった。1番じゃないのは中途半端でなんだか嫌だった。目立ちたいわけではなかったから決して自分の話はしなかったけど、首位というのは特別な感じがして憧れていた。そんな中でも、1度だけ学年で1番テストの総合得点が高かった時があった。
それなのに、その時私は何も感じなかった。自分事のはずなのに、どこか他人事のように感じられた。嬉しくも悲しくもなかった。なんだ、こんなものなんだ…と思った。1番に対する幻想はことごとく無残に崩れ去ってしまった。「まぐれ」という言葉が頭に浮かんだ。これは私が成し遂げた結果なのだろうか…と確信が持てなかった。私は1番じゃなかった。1番になんてなれなかった。まがいものだった気がする。
母数が小さい一つの集団の中でたまたま1番になったからと言って、高をくくっちゃいけないんだ。レベルが高い母数が大きな集団に移った途端、自分の存在はひどくちっぽけなものになった。私はただの凡人なのに、神童みたいな人と張り合えるわけがないのだと悟った。視界がぐらぐら揺れた。もう私は…。私は…。
何のために勉強していたんだろう…とわからなくなった。テストで高得点を取るために勉強していたのか?自分の立ち位置を確認して悦に浸るために勉強していたのか?大人に一目置かれるために勉強していたのか?何のためなのか?自分のためだったのか?私はずっと何を求めていたのか?
私は私がすごく気持ち悪かった。そして、ひどく疲れていた。疲れてしまったが最後。緊張の糸は切れて、果てしなくどこまでも落ちていく…。ただただとても悲しくて虚しかった。
③恐怖の営業成績
営業・販売系の仕事っていうのは、目標値が定められている。そして、その目標に対する達成率も勤務の度に計算して出力される。毎週毎週、売り上げが記録されていき、結果が積み重なっていく。
私はお客さんの前で営業トークを繰り広げるのが苦手だった。ずっと嘘を羅列しているような感じがして…。私は言っていることに何一つ嘘なんてついていないのだけど、偽物の笑顔を貼り付けて喋り続けていたから、頭がどうにかなりそうだった。対人不安がMAXの中、仕事をしていたら、ありえないくらい毎回疲れていた。みんな嫌いだったから、やめたくて仕方がなかった。
何で私はこんなことを苦しみながらやっているんだろう…と自分に腹が立っていた。休日に働く私と違って、呑気に家族と買い物を楽しむお客さんにも苛立ちや吐き気を感じていた。「いい気になってんじゃねえよ」とその場に居る全員に怒鳴り散らかしたい気分だった。
私を指導する人曰く、「たくさん数字を取って、学生同士で競い合ってほしい。どんどん盛り上げていってほしい。」とのことだった。学生のお手並み拝見と言うように、高みの見物をしようとしている人たちがウザかった。
受験や就職活動だけでなく、職場というところでもこうやって競争が繰り広げられるのか…と私は恐怖を感じていた。私は競争も勝負事も嫌いなのに、どうしてこうやって無理に巻き込まれなければいけないんだろう…という不条理も感じていた。私は確実に入る場所を間違えてしまっていた。
何でも数値化されて、割合まで出されるから、どうすればもっと良い結果が出せるのかをちゃんと分析して、改善点を見つけ、自分で向上させていかなければならない。結果が伴っていなければ、努力を認めてもらえない。それが普通の世界なんだと、私はそこでようやく気づいた。
進歩だけが望まれて期待されている中では、停滞も衰退も許されないんだなと思った。周りだけでなく、過去の自分とも常に比べられる世界線。私はそれがひどく苦しかった。自分のペースというものがなかった。いつも焦っていて、必死にならなきゃいけないのが嫌だった。必死に見えない周りの人たちが嫌いだった。
そして、私は限界を迎えて倒れた。四肢をもがれたみたいに動けなくなった。全部嫌になったから逃げた。動けないからもうどこへも行けない。どこにも居場所がなかったし、いつまでも見つけられない。こんな世界なんて消えてしまえばいいのに…!って、恨むことが今日もやめられない。
絶望は幾度となく繰り返される。だから、生きていける気がしない。生きる気力も底をついてしまいそう…。どうして、あの人もこの人も平気な顔して生きていけるの?私は相変わらずまるで理解できないよ。。。