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『変身』|読書感想文
フランツ・カフカの『変身』を読んだので感想を書きます。とっても有名な作品ですよね。高校生の時に軽くだけ読んだことがありましたが、久しぶりにまた読んでみました。
あらすじ
これはお父さんとお母さんを殺しちゃうわ、そうですとも。
ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレゴール・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。
社畜のグレゴール
グレゴールは、旅回りのセールスマンをしており、虫に変身してしまった日も、朝4時に目覚ましをかけており、5時に電車に乗って仕事をしに行く予定でした。虫に変身したことを信じられず、仕事に行こうとしてベットからどうにか脱出しようと奮闘していました。彼はその日までの5年間、病気になることなく、仕事を休むことも1度もなかったそうです。社会人の鑑ではありますが、社畜とも言い換えられるかな…と思いました。
グレゴールは、家に居ても仕事のことを考えており、一家の大黒柱として、献身的に家族を支えていたようでした。しかし、その後仕事関係の支配人が家にまで押しかけてきて、出てこないグレゴールに対して、ドアの前で文句を垂れ流しているシーンには、恐怖を感じました。虫になっただけでなく、そうやって追い詰められている状況は、見るに堪えない…と感じました。
家計の苦しさ
父、母、妹は、稼ぎがなく、家計はグレゴールに頼りっぱなしだったようです。虫になったグレゴールを彼の部屋に監禁して生活を送るようになったため、家計はだんだん苦しくなり、収入を得るために各々働き始めます。グレゴールが虫になったという事実だけでなく、家計の苦しさが、家の雰囲気や家族関係をさらに悪くしているような感じでした。お金は、精神的な安定に直結してるんだなあ…と感じさせられました。でも、生じてしまった亀裂が大きくなっていく様子から、元のグレゴールを失った影響は測り知れないものだ…とも思いました。
家族がひどい
グレゴールが虫に変身してからというものの、家族のグレゴールに対する扱いはぞんざいなものへと変化していきます。グレゴールにりんごを投げつけて背中にめりこませた父や、グレゴールの姿を目にして気絶する母や、グレゴールのことを化け物呼ばわりする妹など、ちょっとひどいなあ…と思いました。手のひら返しというんでしょうか。グレゴールが人間であったときとは、態度が全然違うようでした。いくら見た目が気持ち悪くて、おぞましい虫の姿にグレゴールが変身してしまったとしても、家族の一員であることは変わりないのに…となんだか悲しく思いました。
グレゴールは人間から虫の姿に変わったので「変身」しました。しかし、家族はグレゴールの変身を契機に虫のような心に変わっていったので、「変心」した、というように解釈ができるらしいです。この二つの対比は、ストーリーの重要なポイントです。グレゴールは「変身」はしたけど、「変心」はしていなくて、ちゃんと人間としての意識があり、家族のことを気遣って自分の姿をなるべく隠していました。
だけど、家族はそのことをつゆほども知らず、だんだん虫けら扱いするばかりで、グレゴールは可哀想でした。グレゴールが部屋の中を這い回りやすくするために、母と妹が気遣ってグレゴールの部屋から家具を持ち出そうとするとシーンでは、自分が人間だったときの思い出の品を失うことに対するグレゴールの悲痛な心境が、ありありと伝わってきました。人間として扱われなくなってしまうこと、尊厳を失ってしまったことは、こんなにも悲しいのだなと思わされました。
グレゴールの死
グレゴールは妹が部屋に運んでくれていた食べ物を食べるのをやめ、衰弱して死んでしまいます。もう死んだほうがマシだと思っていたようでした。グレゴールの死後は、グレゴールの死を悲しみつつも、家族はグレゴールという虫を抱える必要がなくなったため、一気に家は自由や解放感、ハッピーエンド、将来への希望というような空気感に包まれます。
グレゴールは人間から虫に変身してからというもの、彼はもう家族でなくなってしまったんだろうか…、邪魔なペットのような存在になってしまっていたのだろうか…と思いました。大きなお荷物がなくなって、家族が喜んでいるようにも見えてしまったのが、後味が悪かったです。家族がグレゴールのあまり死を悼んでいないことは、無念でした…。グレゴールの死は、明るい未来へのきっかけとして捉えられている印象でした。
虫はメタファーか?
虫は「うつ病や統合失調症などの精神疾患になった者」「身体が突然不自由になってしまった者」「結果を残せなくてある日燃え尽きた者」などのネガティブな状態に陥った人のメタファーとしても、捉えられるのかな…と思いました。なぜ、虫に変身してしまったグレゴールのことを、家族が疑わずにグレゴールだと認識していたのか?ということを考えると、虫はメタファーや象徴として使われているような気がしました。変身した理由や経緯が謎なのも、突拍子もなく病的なものに襲われたから、というように解釈できるのではないかと考えました。グレゴールは虫になってでも、仕事をやめたかったのかもしれません。でも、その先には悲劇が待っているだけでした…。最初から最後まで悲しかったです。
いずれにしても、グレゴールはとても不憫な存在でした…。救いがないお話ですが、現実的な要素も感じられました。虫に変身していたという非現実なところから、話が展開されていきますが、家族との関わりが引きこもりや介護の問題を彷彿とさせる内容でした。家族から冷酷な扱いを受けるのは、誰しも嫌だし、辛いものですよね。食べることをやめて、自ら死を選んだグレゴールの気持ちにも共感できました。どんな姿でも愛してくれる人というのは、いないのかもしれないな…と思いました。いろんな解釈ができる作品なので、面白かったです。