読書まとめ『書く技術・伝える技術』→パラグラフ・ライティングで読み手に配慮
『改訂新版 書く技術・伝える技術』 倉島 保美
一言でいうと
パラグラフ・ライティングで読み手に配慮
概要
読み手に配慮した文章を書くスキルを、具体的に教えてくれる本です。パラグラフ・ライティングと呼ばれる手法を使った、読みやすい文章を作るコツが述べられています。
読み手に配慮した文章とは、読み手の予想通りに展開される文章と言えます。読み手は、文章を読んで自分なりの理解=メンタルモデルを作ります。そのモデルの予想どおりに文章を展開していくことで、読み手は高速処理が可能になります。例えば「3つの原因がある」と書かれていたら、そのあとには1つ目の原因が語られ、2つ目・3つ目と続いていくと予想できます。「3つの原因がある」と書かれていなかった場合、最初に描かれた原因が唯一の原因だと思って読み進めていくおそれがあります。
読み手に配慮した文章が書ければ、コミュニケーションエラーを防げます。長らく日本社会では、意図を察する・空気を読む力が重要視されてきました。コミュニケーションエラーを起こさないように、読み手側には意図を察する力が求められました。しかし近年、多様性の尊重が叫ばれ、背景の異なる人と接する機会が増えました。読み手の背景が多様化したことで、コミュニケーションエラーの原因は書き手側の責任だと認識されるようになりました。文章に限らず、相手の現状認識や感情を理解しない言動は、ハラスメントにもつながります。
読み手に配慮した文章を書くための手法として、パラグラフ・ライティングを用います。パラグラフ・ライティングとは、意味のまとまり=パラグラフを作ることと、パラグラフの先頭に要約文を置くことをルールにした手法です。
※パラグラフ・ライティングの概要は、石原尚(大阪大学教員) さんの投稿がとてもわかりやすいです。
パラグラフ・ライティングのメリットは、一言で言うと書きやすく読みやすいことです。書き手にとっては、型が決まっているので、話の脱線を防ぎやすいメリットがあります。読み手にとっては、全体の構造がつかみやすいので、読み飛ばしがしやすいメリットがあります。
パラグラフ・ライティングの手法は、察する力を重視してきた日本ではほとんど浸透していません。欧米の大学では、1年次にパラグラフ・ライティングを最低半年は勉強するそうです。英語の長文読解では、先頭文だけをまず読んでいくパラグラフ・リーディングの手法が知られています。しかし日本語の場合は、そもそもパラグラフ・ライティングで文章が書かれていないケースが多いので、パラグラフ・リーディングが使えません。
パラグラフ・ライティングを身につければ、わかりやすい文章が書ける人材として、一目置かれる存在になれるでしょう。また、文章を書くだけでなく、会話やプレゼンテーションのスライドにも応用できる手法だと思いました。私も意識しないとそうなってしまいますが、結論から話さない人のなんと多いことか。
本書から学んだパラグラフ・ライティングの要点を、3点ピックアップしました。文章を書くときには、まずはこの3点を守っているかを意識したいと思います。
① 先頭だけで意味が通じるように書く
文書全体の先頭には総論を、各パラグラフの先頭には要約文を置きます。先頭に要約文を書いたあと、それを受けて詳細を展開していくイメージです。会話においても、まず結論を話すのはビジネスの鉄則ですよね。
ビジネス文書は、読み手はすべてを読むわけではないことを前提に作成します。楽しむことを目的として読む文書(小説など)であれば、読み手は先頭から順に最後まで読むことが前提になります。しかし、ビジネス文書の読み手は、楽しむことではなく、必要な情報だけを得てアクションすることを目的としています。つまり、読み手にとって必要ない部分は、読み飛ばされることを前提にするべきです。
先頭に要約文があれば、そのパラグラフを読み飛ばしてよいかどうかを判断できます。要約文が先頭にない場合、ひととおり文章を読んだけど、自分には関係のない内容や、知っている内容しか書かれていなかった、ということが起こります。
文書を作成する際は、まずは先頭を作ってから、詳細を肉付けしていくようにすると、一貫性を保ちやすくなります。まず文書の総論を作り、総論を受けた各パラグラフの要約文を作ります。それからパラグラフの詳細を書き、最後に、総論に修正が必要かを見直します。先頭文だけをつなげて読んで、意味が通じるか、情報の順序が既知から未知になっているかを確認する方法が有用です。
② 並列する情報は同じ構成で書く
並列する情報を同じ構成・順序で書く(パラレリズム)ことによって、読み手のメンタルモデルどおりに展開していきます。例えば問題に対する3つの手段を挙げるなら、各手段のメリット・デメリットをそれぞれ列記します。3つのうち1つだけデメリットに言及しない、などはNGです。また、メリット・デメリットの順序も3つとも合わせます。
パラレリズムを守ることは、童謡の展開に似ているなと思いました。例として、『おもちゃのチャチャチャ』の下記の歌詞を見てみましょう。
前半では「きょうは」と時間に関する単語が出てきます。他のパラグラフ(1番とか2番とか)でも、前半2行には「おほしさま」「ねむるころ」「こんばんは」「おひさま」「こんにちは」などの時間を表す単語が登場します。いずれの繰り返しでも、前半は現状説明という構成を取っています。
後半では、動物名+鳴き声がパラレリズムを守って3回出てきます。そして最後のチャチャチャも、この4行のメロディーに対する〆の言葉として、他のパラグラフでも同じ位置で使われています。
童謡とビジネス文書は、わかりやすさ重視という点では共通しています。楽しみを目的に聞く音楽としては、2番のアレンジを変えたりCメロを追加したりといったヒネリがないとつまらないものです。一方で、童謡は同じリズム・構成で淡々と繰り返していくことで、子どもでも楽しめるわかりやすさを生んでいます。ビジネス文書も、童謡をイメージして作るとよいのかもしれないですね。
③ 無駄なく簡潔に書く
ビジネス文書においては、不要な情報や冗長な表現を省き、簡潔な文章を書くことが重要です。要約文を書いて読み飛ばしができたとしても、無駄な情報が多かったり、一文が長かったりしたら、読み手の負担になってしまいます。
不要な情報を省くには、読み手を明確にして、そのニーズと前提知識を意識する必要があります。読み手にとって、必要としていない情報や、すでに把握している情報は、カットして問題ありません。
冗長な表現は、文末に現れることが多いです。「こと」「可能になる」「△△性を高める」などはついつい使いがちです。シンプルに書き直しましょう。
二重否定の文章は、肯定文にするとわかりやすくなります。ただし、「△△できない」の文章の場合は、単純に肯定文にすると意味が変わることがあるので、前後を入れ替えることもあります。
過剰な敬語も避けましょう。本書では取り上げられていなかったですが、欧米の大学では教えてくれない、日本語特有の冗長表現です。文章を書くときだけでなく、会話でも意識したいですね。
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