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ぼかし肥や堆肥の発酵についてまとめていたら菌はまぜたらアカンでしょ?と思った話
前回はぼかし肥と堆肥の違いについてざっくりとまとめてみました。
今日はぼかし肥や堆肥を作るときの発酵について私なりにまとめてみたいと思いますが、そもそもの大前提として「腐敗」と「発酵」はどこが違うのでしょうね?
実はざっくりいうとどちらも微生物(細菌、菌類、ウイルス、微細藻類、原生動物)による「分解」のことを指しますが、人間にとって有害なものを「腐敗」、人間にとって有益なものを「発酵」と呼び分けているだけなのです。
ふーん、つまり人間の都合で呼び方が変わってるだけってことは、ヨーグルトも納豆も、お酒もありがたがって口にしてるけど、発酵してるってことは言い方を変えたら腐ってるってこと?はい。そういうことなんです。www
微生物の種類と発酵の特徴
閑話休題。有機物を分解する微生物には大きく分けて好気性と嫌気性の2種類がいます。
たとえば、ぼかし肥や堆肥を作るときによく目にする好気性の菌の代表格は枯草菌(納豆菌)や糸状菌(白カビ)などでしょうか。彼らが活躍する好気性発酵は呼吸熱で温度が上がり、出来上がりが早いのが特徴です。日本における堆肥作りは古来からこちらの方法がメインだったそうです。
一方、我々がなじみ深い嫌気性の菌といえば酵母(イースト)や乳酸菌、ビフィズス菌などです。嫌気性の菌はさらに空気に触れていても生きている菌(通性嫌気性菌)と、空気に触れるとすぐに死んでしまう菌(偏性嫌気性菌)に分けられます。ちなみに乳酸菌は前者で、ビフィズス菌は後者です。
これら嫌気性の菌を用いて空気を遮断した状態で発酵させる嫌気性発酵は、好気性発酵より温度は上がらず時間もかかります。また、分解の過程でメタンガスと発酵液が発生しますが、ゆるやかに発酵が進行していくので栄養分が減りにくいというメリットがあります。
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ところで、前回の記事でも書きましたが、農家さんはぼかし肥料を作る際に、発酵促進もさることながら、畑の土壌菌の種類を増やす目的で様々な菌を入れられます。
EM菌や市販の菌資材はもとより、ヨーグルトや乳酸菌飲料で乳酸菌、納豆を何粒か入れて納豆菌、ドライイーストを混ぜてイースト菌、米麹や酒粕を入れて麹菌を入れたりして工夫されているんです。
私も堆肥やぼかし肥料を作り出した当初は、面白がっていろんな菌を投入していました。でもね、これってよく考えたら好気性の菌も嫌気性の菌も、活性化する条件が異なる菌が全部ごちゃまぜなんです。これまで見てきた通り、私にはこれら全ての菌が同時に活性化して発酵するようにはとても思えませんし、どの菌が発酵のどの過程でどのように活躍するのか全くわからないので、かなり懐疑的に思うようになりました。(^^;)
納豆菌と乳酸菌を同時に材料に投入するとどうなる?
たとえば、納豆菌と乳酸菌の入った液を同時に材料にかけまわしておくとどうなるか?について考えてみましょう。
まず好気性の納豆菌が空気に触れて活躍し出し、米ぬかやその他の材料に含まれるデンプンをセッセと分解し始めます。このとき内部温度は菌の呼吸熱で70度近くにまで上昇します。
実は乳酸菌は非常に熱に弱くて、種類にもよりますが50~60℃程度になるとほとんど死滅するんですよね。乳酸菌はこの高い発酵熱に何日にも渡ってさらされ続けることにはとても耐えられません。ということは、この時点で乳酸菌はほぼ全滅することが予想されます。
ま、ぼかし肥や堆肥作りの場合は、死んでしまった乳酸菌も他の菌のエサになるからいいんですけど、これじゃせっかくの乳酸菌も生きたまま畑の土壌には届きませんよね。ダメじゃーん。w
如何でしょうか、みなさんはどう考えられます?たぶんEM菌や市販の菌資材、イースト菌、麹菌など他の菌との組み合わせでも、きっと同じように互いが影響しあって「あちらを立てればこちらが立たず」なことが発生しているんじゃないでしょうか?微生物たちは互いに依存する共生関係も発達させていますが、逆に他の種の活動を抑制することもしているわけです。
ましてや、畑の土の中にはもともとすごい数の微生物が存在して、その時々の環境や条件の変化に応じて、増えたり減ったりの攻防を繰り広げていますから、もちろんそれらとの熾烈な生存競争もあるでしょう。
ま、このあたりのことは、たとえ研究室で培養器を使って各種菌を組み合わせて培養する実験を繰り返したとしても、実際の土壌の環境や条件が異なるので一概にこうとは言い切れないんじゃないかと思う次第です。
土壌菌の種類を増やすには環境を整えてやることの方が大切
農家さんの「畑の土壌菌の種類を増やしたい」という気持ちはよくわかります。だけど畑の土の中である特定の微生物を増やすことは相当難しいのです。人間の思いつきであれこれよさげな菌を入れても、結局は強い菌が他の菌を抑え込んで増殖し、最終的にはその畑の今の環境に適した菌のみが生き残るだけなんじゃないでしょうか?
もしどうしても土壌菌の種類を増やしたいなら、直接菌を入れるのではなく、それらの菌が活性化する環境を整えてやることの方が大切なのかもしれません。わざわざ菌を入れなくても自然界にはもともとたくさんの種類の菌がいるわけですからね。
こんなことを言っている私も、堆肥作りに挑戦し出した頃は好気発酵させたいのにどうしても温度が上がらずに、嫌気発酵になってしまう失敗を1年近く繰り返しました。それこそいろんな菌を入れたり発酵促進剤を使ったりして試行錯誤しました。でも、あるとき発想の転換をしてシンプルに好気発酵の環境を整えることだけに目を向けたら、ものすごく簡単に発酵させることができたんですよね。(^^;)
つまり、今回の結論としては複数の菌を同時に入れて堆肥やぼかし肥を発酵させても、こちらの狙った通りに菌の種類を増やすことはなかなか難しいし、畑の土壌中で生き残らせることはもっと難しいだろうってことですね。
次回は納豆菌最強説です。お楽しみに。
あー。何だか身も蓋もない結論なんですけど
このやり方がいいんだって信じておられる
農家さんに叱られないかな?
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