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詩集◉ニルヴァーナ

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言葉も使って、竿の先へ。竿の先からジャンプできるかどうかは、縁次第。
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2024年6月の記事一覧

◉詩/虚無に落ちたが

◉詩/虚無に落ちたが

虚無に落ちたが

ブッダは言った
人生の全てが苦である、と。
そして
無我である、とも。

あなたはいないので
人生はない
これが真意か

虚無に落ちた。

夢を見た
夢の中で山に登り
日の出を見た
実に光は私の中で輝いていた

この時、わかった
白昼の太陽も心の中にある、
世界も心の中にあると。

いつの間にか
瀬に浮かんでいた

2019年1月

◉詩/無常の水面(みなも)

◉詩/無常の水面(みなも)

無常の水面

いつかの夏
奥多摩でキャンプしていた
せせらぎに
足先を沈めてじっとしていた時
どうにも分からないことに気づいた
水は今ここを流れているけれど
この水を多摩川と呼ぶのか
川底を多摩川と呼ぶのか
どこからどこまでを多摩川と呼ぶのか
分からなかった

人は蛋白質の川だ
かつ消えかつ結びて
八十年程の動的平衡を終える

無常の水面はきらきらしていて
虚しさのかけらもない

2022年9月

◉詩/刃物 / パパゲーノ3

◉詩/刃物 / パパゲーノ3

刃物 / パパゲーノ3

小学生の時
ボンナイフというものがあって
それで鉛筆を削った
削り方は母が教えてくれた

同じ頃
父が懐刀をくれて
これで家族を守るんだぞと言った

ボンナイフはとうになくしてしまったが
懐刀は今でも持っている

父は有名私立高校の卒業生で
僕は子供の頃、実力以上を強いられ
壊れた。
父の母校の校章は
「ペンは剣よりも強し」だが
僕は、それはちょっと違うと思っている

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◉詩/荷

◉詩/荷



このまま狂ってしまうのではないか。
途中下車してうずくまり
その強い恐れが去るのを待った
脳をわしづかみにしてくる、
鈍重な違和感の塊とともに。
まだ中学生だったがその苦しみを担った

もういい歳だが
人生は棒に振ってしまった
抑うつも相まって
いまだに時折あの恐れが来る
じっとして、
それが去るのを待った

園児の頃から毎朝吐いていた
そのように生まれついていたのだろう
たいがいは絶望的だ

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◉詩/悼む

◉詩/悼む

悼む

常に
太古から
全てのいきものに作用してきたというのに
ニュートンの登場まで誰にも気づかれなかった、
引力のように
現前はあった。なのに
毎晩死にたくなるのはなぜなんだろう
どこにいてもいたたまれない
どこからもいなくなりたい
常に
どこにもいないと気づいているというのに。
眠れぬ夜が明けて葬儀の支度をする

タゴールとアインシュタインが対話した時
タゴールは現前について語り
アインシュタ

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◉詩/無力ということ

◉詩/無力ということ

無力ということ

あなたが仏教徒なら
それを仏性と呼ぶのでしょうか
あなたがクリスチャンなら
それをみ心と呼ぶのでしょうか
私はそれを命と呼んでいます

あなたが泣いているなら
命が泣いているのです

あなたが苦しんでいるなら
命が苦しんでいるのです

あなたが驕って(おごって)いるなら
命が驕っているのです

暗い道で
あなたが誰かを刺したなら
命がその人を刺したのです

あなたが悔いているなら

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◉詩/濡れ衣

◉詩/濡れ衣

濡れ衣

嘘をつかれて
居場所をなくした
いじめを受けて
その場から逃れた
そんな折、良寛さんを思い出す
盗みの濡れ衣を着せられて
言い訳もせず
穴に埋められた
それで良かった
助けは来るだろうか
そんなことを思いもせず
待つこともなく
ただそこに在った
宇宙として、粛々と。

三億円もらっても
もうやりたいことがないんだ
布団の上に寝転んだまま
夕となり、また朝となった
(創世記1:5)

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◉詩/略歴

◉詩/略歴

略歴

ベッドと机と椅子を捨てた
それから手紙と葉書を破いて捨てた
もう二度と読み返さないだろう本を捨てた
十年分の日記を要約しようと読み返して
それはできないのだと知って焼いた

その後、本は図書館で借りるので増えていない
晴れた日には散歩している
雨の日は読書している
まだ着られるが
もう二度と着ない着古しを今日海外へ送った

ただ座すことと何ら変わりのない、
それらは生きていく上で何ら必要の

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◉詩/風景について3

◉詩/風景について3

風景について3

公園のベンチで一服
昨夜の夢が思い出される。
アボリジニのように僕は
夢も体験として重用する

誰が描いたというのか、
その夢の中で
意識こそが世界の素材そのものだった

クオリアの外に出たいと
ずっと思っていた
意識の内にある世界に
客観的な外があることなど
どうしたって証明できないのだと
ずっと思っていた
でも、そもそも外などなかったのだ

蝉時雨に汗ばむ
鼻先が視界に入らぬ

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