大好きだったあの人④


入ったお店はとても明るいお店だったのが今でも強烈にイメージとして残ってる。

春の日差しのような暖かい明るさ。
白木のテーブルセットや白い障子で仕切られた個室が明るさを増していたのかもしれない。

何を食べたか何を飲んだかは覚えてないケド。


「オールディーズが好きって言ってたね。
どんな曲を聴くの?」

「パティ・ペイジの『テネシーワルツ』が好きで聴くようになったんです。
ニール・セダカの『すてきな16歳』もお気に入りデス」

「すてきな16歳?」

「シャンララ ララ ランラララ
happy birthday sweet sixteen」
アタシは歌う

「ああ、聴いたコトある!」

「プレスリーも大好きデス」

「うーん…なんだかいつものアナタからは想像できないなぁ」

彼は少し思案した後切り出す。
「ねえ、もしかして、お店でアナタが見せてる姿は本来のアナタとは違うんじゃないの?」


アタシはお店に勤めるコトになった時にママからキャラ変をするよう指示されてた。

「aneはその男好きする顔を使って本気にさせても構わないから媚び売って甘えて、これでもかってくらいお客様を惚れさせなさい」

いつものサバサバしたキツい物言いを封じ、癒し系キレイめお嬢様を演じるように、と。



マズい。
バレた…
ちょっとはしゃぎ過ぎたか。


彼にアタシがお店で演技してるコトがバレてしまった。

もうこの状況で言い逃れはできまい。
アタシは腹を括る。

「どうしてそう思われるんですか?」

「なんだろう…
お店で見るアナタより、今のアナタはもっとずっと賢そうな気がするんだよね。
あ、お店の姿が馬鹿っぽいとかそういう事を言ってるんじゃないよ。
ただ、あのお店での『何も知らないんです』ってとぼける感じが先週のディナーショーや今のアナタとどうも駆け離れてる気がしてね」

「なるほど…実は…」

アタシはママからキャラ変する様に指示されてるコトを正直に話した。

「ママも性格のキツい人だし、他の女の子もキツい子が多いでしょう?
だからコレ以上キツい女の子要らないって、ママが。
せっかくだから可愛い子になれって」

「そういうコトか」

「すみません、Sさんにこのことバラしちゃったコト、ママには内緒にしておいてくれませんか?」

「もちろん。今日ここで僕と一緒に食事してるコトもママには言ってないんでしょう?」

「あ、ハイ」

「じゃあ2人だけの内緒ネ」

「ありがとうございます」

「うーん、お店のaneちゃんも可愛くて大好きなんだけど、今、目の前に居るaneちゃんもとても魅力的だなぁ」

アタシは「イヤ〜それほどでも〜」とニンマリ。

「アナタをもっと見てたいナぁ。
どんなaneちゃんが出てくるか、ワクワクしちゃうネ」



食事の後、ホテルの最上階にある夜景が見えるバーに連れて行ってもらった。

「ねえ、本物のaneちゃんをもっとたくさん見たいからサ、もし明日予定がないなら僕に付き合ってくれないかな?」

「明日?
ああ、暇してますヨ」

「やった!
ヨシ、明日は海でも見に行こうヨ。ドライブデート、決定ネ」

アタシは彼の顔を見るのに夢中で、夜景なんて見たかどうか覚えてないなぁ。

ドキドキが止まらなくて、

あ〜、アタシ、この人のコト、めっちゃ好きなんだ〜

って思った。
アレは紛れもなく恋だった。

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