大好きだったあの人vol.27
アタシは彼から電話がかかってくるのを待ち続けてた。
考え直そう
何があったの?
もう一度話し合おう
でもそれはアタシの都合のいい妄想だった。
アタシは彼が二度と電話をかけてくるコトも、アタシを迎えに来るコトも無いコトをわかっていた。
だって、あんなに自分勝手に一方的に別れを告げたんだから。
彼は、アタシの無責任な行動に怒ってるだろうって思ってた。
アタシには二度と会いたくないだろう、って。
ちゃんとわかっていたけど、心のどこかで彼を待ち続けてた。
もちろん、彼から連絡がくるコトはなかった。
アタシから電話をするコトもしなかった。
「アタシは汚れたクズ人間だから彼には相応しくないし、きっとこんなオンナだから彼もアタシのこと大嫌いになっちゃったんだろう」
そう本気で思ってた。
今ならもっとちゃんとできるのになぁ。
「あれは脅されて言っただけなの」
「本当は東京へ行きたい」
「助けて」
なぜ彼に本当の事を言わなかったんだろう。
イヤ、何をどこから話せばいいって言うの?
「本当の事」は7ヶ月も前から彼には打ち明けられていないのに。
アタシが抱えてた問題のすべてが、アタシには彼とやり直せるよう説明する事は到底できなかっただろう。
どうしてアイツと食事なんか行ったんだろう、
行かなかったら、アタシは東京に行ってた。
どうして彼に一人暮らしを反対された時に夜の仕事を辞めなかったんだろう。
お店辞めてれば、しつこい客どもに悩まされるコトなんてなく彼と過ごせたかもしれないのに。
ううん、もっとその前からだ。
彼と付き合いだして、最初に
「夜の仕事、辞められないの?」
そう聞かれた時に辞めておけば良かった。
そうすれば、アフターで襲われるコトもそれをネタに脅されセクハラを受け続ける事もなかったし、今ごろ、大好きな彼と幸せに暮らしてたかもしれない…
借金は夜のバイトを辞めてもちゃんと返せたんだ。
昼の仕事だって多分辞めなくて良かった。
ちょうど彼に別れを告げた直後、東京支店の経理担当者が突然退職して、本社経理から仲の良かった先輩が長いこと東京に応援に行ってたんだ。
アタシが東京支店勤務を望めば、転勤できてた。
両親だって、ちゃんと説得できたはず。
母ちゃんは本音では反対してなかった。
「aneがSさんと居るのが幸せなら、私は反対じゃないよ。
父さんがあんなだから父さんの前では言えないけど、母さんは良いと思ってるよ」
そう言ってた。
父さんだってそう。
いつだってアタシの幸せを考えてくれてたから、
アタシがどうしてもSさんと居たい、
Sさんとの結婚じゃなきゃ考えられない、
そう言っていたら父さんも最後には
「ane、オマエの好きなようにしなさい」
そう言ってくれたはずだ。
もうすべてが終わった過去のハナシだ。
何をどうしようもない。
あの時こうしてたら、ああしてれば…
すべてが“たられば“だ。
実はアタシは、彼を心の底から愛してたコトも、辛過ぎる彼との最後も、すべてを脳みその奥深くに封印し忘れ去ってた。
彼との年齢差にアタシが負けた
そう記憶を捏造してた。
悩んでたのは事実だったケド。
ひょんなキッカケから彼のすべてを思い出した。
彼のコトがどれだけ大好きだったか、どれほど愛してたかを思い出せた。
思い出せて本当に良かったと思う。
彼を大好きだった気持ちは、24年の時が流れても変わらずある。
今でも彼は、アタシが心の底から恋焦がれ愛したただ一人の人。
変わらず大切な人なんだ。
彼を大好きだった気持ちを大切にして、このせつない恋物語を忘れないでいよう、そう心に誓う夜デス。