大好きだったあの人vol.24
先輩は両親の反対を押し切って結婚するべきじゃないと言った。
「私なら親の意見を無視する事はしないよ。
23年間、アンタの幸せを考えてきた両親のコト無視して結婚して、本当に幸せになれると思う?」
先輩の言ってるコトは正しかった。
このまま東京へ行き、彼と籍を入れて、彼の家で暮らすのだとしたら、アタシは父ともう一度向き合わなければならない。
父がどんな判断を下そうとも、今まで育ててくれた恩をすべて捨て去り、無視をし続ける事はできない。
先輩の言葉はさらにアタシを悩ますコトになった。
夜のバイトは本当に面倒くさいコトが多くなってた。
アタシ推しの客たちのアプローチが執拗さを増してたから。
その頃には、ママがアタシとのサシアフターを完全にシャットアウトしてたから、どうにかしてプライベートで会えるよう持ち込もうとする客が増えた。
アタシの勤務明けを待ち伏せするヤカラ、
帰りのタクシーをツケるヤカラ、
もうほとんどストーカーの域だ。
見送りのエレベーターの中で妙な気を起こして襲いかかるヤカラもたくさんいた。
大概のヤツらはエレベーターが一階に到着したら落ち着きを取り戻すのだが、アタシを階段室に引きずり込んで襲いかかるとんでもないヤカラがいた。
幸い、戻って来ないアタシを心配した友達によって助け出され、未遂に終わったが…
アタシはアタシのコトが大好き!と言ってくる客が怖くて仕方なかった。
ホントに怖かった。
頑なに拒み続けたら、襲い掛かられる、だなんて…
良いようにアタシをお持ち帰りするあのオトコのように、背の高い人は特に怖かった。
抵抗してもきっと無理矢理アタシに言う事聞かせようとしてくるだろう。
襲われるのだけはイヤだった。
それくらいなら、客の言う通り、プライベートデートで食事して、もし仮にそういうコトをしないといけなくても、あのオトコをガマンしてるように、目を閉じて歯を食いしばってるほうがマシ。
そんな恐ろしい考えをするようになってた。
そんな時だった。
アタシには断るコトができないほど、しつこくプライベートデートを持ちかける客が現れる。
素足に革靴、イッセイミヤケのスーツ…
大物俳優か?みたいなコーデ、自分に自信あるヤツしかでけん。
「オレはオンナにモテる」と言わんばかりの自分に自信満々のオトコだった。
もちろん背が高い。
アタシが誘いを断るコトなんか念頭にないヤツだった。
のらりくらり躱そうとしても、いつもの感じじゃ全く誤魔化しが効かない。
露骨にイヤそうな表現をしても聞く耳なんか持たない。
手強い敵が現れやがった、アタシはそう感じた。
「一度オッケーしないと諦めてもらえない」
仕方なくアタシは食事へ行く事にする。
それが、彼との終わりを意味し、破滅の沼底に沈んでしまう選択になるコトとも知らずに。
お店で着るような甘い服装は封印し、なるべくキツく見えるように、黒を選ぶ。
雰囲気もお店のような可愛らしさは封印。
ハッキリとした物言い、冷笑。
でもソレが裏目に出てしまう。