米津玄師、藤井風、椎名林檎、キタニタツヤ、新東京、SexyZone、TWICEまで 気になるあの曲たちの共通点
聴いてきた歌モノは、ずっと洋楽中心だった。流行りのJ-popには当然疎く、知っているのはテレビCMかドラマの挿入歌ぐらい。2年ほど前、藤井風の「丸の内サディスティック(弾き逃げ)」に出会うまでは。
藤井風「丸の内サディスティック(弾き逃げ)」
藤井風を聴くようになってから、派生して近い雰囲気のJ-POPアーティストも聴くようになった。椎名林檎は知っていたし、ライブにも行ったことがある。だが、アルバム全体を通して聴くことは、それほど多くはなかった。
「洋楽っぽい」という形容は、グローバル化が進む現在のJ-POPシーンでは、もうほめ言葉ではないだろう。だが邦楽アーティストの中には、藤井風をはじめ、洋楽テイストを感じさせる楽曲が増えてきている。
「丸サ進行」は世界共通か
椎名林檎「丸の内サディスティック」はよく聴いた曲のひとつ。だが特にコード進行を気には留めていなかった。藤井風のカバー演奏を聴いてから、「丸サ」のコード進行が無性に気になり始め、耳コピしてピアノで弾くようになった。
椎名林檎「丸の内サディスティック」
「丸の内サディスティック」をはじめ、さまざまな曲をピアノで弾いていくうちに、ヒット曲や気になった曲は、どれも似たようなコード進行が使われていることに気が付く。(今ごろになって気付くのはどうかと思うが)
ピアノが美しい「幕の内サディスティック」東京事変のライブバージョン
世界は「丸サ進行(Just The Two of Us進行)」と「ペンタトニック」であふれてる
さまざまな楽曲で使われる「Just The Two of Us進行」 このコード進行こそが「丸の内サディスティック進行」だ。サックス奏者グローバー・ワシントン・ジュニアの「Just The Two of Us」は、広く知られている。
Grover Washington Jr.feat. Bill Withers「Just The Two of Us」
ただ、おしゃれで洗練されているだけではない。どこか憂いを感じさせる切ない響き。メジャーコード(明るい和音)から、マイナーコード(暗い和音)へ転調するかのような不安定さ=調性浮遊感が漂う。この明るいとも暗いともつかない浮遊感こそが「丸サ進行」における”エモさ”の理由だ。
J-POPシーンでも広く使われる「丸サ進行」
昨年末、音楽番組を見ていると、耳に飛び込んできたのがこの曲。Sexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」
オープニングのコードから耳を掴まれた。何というクールさ。
2ステップ、UKガラージを思わせる重低音を効かせたリズムトラック。ピアノのバッキングは硬質な音色で刻まれる。内臓に響くバスドラやシンセベース、ウワモノで鳴っているシーケンス音やサンプリングフレーズまでも、最高にカッコいい。(年末年始に耳コピしてピアノで弾きまくった)
バックサウンドもさることながらボーカルも巧みだった。難なく乗せた英詞、リズム感抜群でキレの良いラップ。ダンスミュージックとしても秀逸すぎる。(失礼ながら)J-popアイドルグループの楽曲も、ここまでの仕上がりとクオリティになったのかと驚いた。
https://twitter.com/sicertopiace/status/1472896036049854465?s=20&t=_rUnfXntZr9v7sp119NjWw
Sexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」
コンポーザーはアメリカで作曲を学んだ韓国系アメリカ人のスティーブン・リー。彼は鍵盤奏者(ここはポイント)であり、音楽プロデューサーとしてジャニーズはもちろん、K-POPアーティストにも数多く楽曲提供している。K-POP界はBTSで知られているように、多くのアーティストが世界へ照準を合わせ、巧妙かつ綿密なアプローチを仕掛けている。
「音圧」というのだろうか。本場アメリカ仕込みのサウンドに、重低音を強化したリズムトラックとミキシングは、90年代のダンスミュージックを彷彿とさせる。
「丸サ進行」に併せて「ペンタトニックスケール(ハ長調ではド・レ・ミ・ソ・ラの5音を使った音階)」を盛り込んだところも、エモさ満載だ。
コードの積み方も鍵盤奏者独特(手と指の形で和声が動いていくのがわかる)だったのも、ツボにハマった原因の1つだと思われる。
SexyZoneを知らないダンスミュージック好きや、コアな音楽リスナーも引き込まれたのには、それなりの理由があったと納得。
「ペンタトニックスケール」は世界共通か
メロディーにペンタトニックスケールを使った楽曲も多い。
TWICE「Feel Special」にも「丸サコード進行」と「ペンタトニックスケール」が使われている。初めて聞いた時、すぐにSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」と似ていると感じた。(「Feel Special」のほうが先に発表されている)
TWICE「Feel Special」
4つ打ちのバスドラ、フィルインで連打されるスネア、キラキラのシンセリード。ハウスミュージックを思わせるような規則正しいクラップ。サビのメロディーがポップでわかりやすいのは、先述したSexyZone「RIGHT NEXT TO YOU」と同じだ。
こちらは80年代のカイリー・ミノーグに代表されるような、SAW(ストック・エイトキン・ウォーターマン)サウンドを思わせる。
TWICEのプロデューサーで作曲とアレンジも手掛けるのは、韓国の芸能事務所「JYPエンターテインメント」の代表J.Y.パーク(パク・ジニョン)。共同で作曲を担当しているOllipopはスウェーデンの音楽プロデューサーで、Hayley Aitkenはオーストラリアのシンガーソングライターだ。共に少女時代など、アジアのアーティストの楽曲を手掛けている。
「Feel Special」には「グローバル」という一言で表せないほど、さまざまな国のカルチャーとスピリットが盛り込まれているのだ。
J.Y.パークはSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」の作曲者であるスティーブン・リーと同様に、アメリカで本場のブラックミュージックを学んだ経験を持つ。
注目したいのは、JYP自身がアーティストだということだ。弾き語り動画やダンスしながらの歌唱を見たが、うまいを超えて、上手すぎる。
J-POPでは、初めて三浦大知のダンスと歌唱を見たとき、度肝を抜かれた。J.Y.パークのパフォーマンスは、それに匹敵するほどの衝撃だった。
キレが抜群で体幹のブレないダンスは、アラフィフという年齢を感じさせない。歌唱に関してはモンスター級。それに、どちらもテクニックと表現力の高さが神業レベル。
プロデューサー自身がアーティストであることは、大きなメリットだろう。エンターテインメント業界に精通しているだけでなく、自ら歌い、踊って見せることで、目指す理想形を具体的に示すことができるのだから。
彼は全米チャートだけではなく、J-POP市場にも詳しい。最近はTWICEだけでなく、ソニーミュージックとの日韓合同プロジェクトで誕生したNiziUのプロデュースでも知られている。
藤井風もよく使っている「ペンタトニックスケール」
4つ打ち、ユーロビート、SAW風といえば、藤井風の「きらり」もそうだ。HONDA「VEZEL」のCMタイアップ曲となったこの曲は、ドライブにもピッタリの軽快な曲調でヒットした。
「きらり」音楽的な考察はこちら
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藤井風「きらり」
ちなみに藤井風も、ペンタトニックスケールの巧妙な遣い手。「きらり」のサビにも登場するほか「何なんw」「帰ろう」「死ぬのがいいわ」など数多くの楽曲に使われている。
日本市場だけではなく、世界で勝負できる音楽へ
日本は島国ということもあり、J-POP市場は独自の発展を遂げてきた。むしろこれまでは、閉ざされた市場だけでも、それなりに潤ってきたという事実もある。
しかし、近年ではBTSに代表されるような国境の壁を越えたプロモーションに注目が集まっている。
想定を超えて長引くパンデミック禍。
J-POPマーケットというガラパゴス市場のみでは、生き残りが難しいのを実感しただけではない。インターネットの発信力を最大限に活用し、国境や人種、言語の壁を越え、共感と活躍の輪を広げようという試みもあるだろう。
グローバリズムを意識したK-pop方式の販売戦略は、これからますます存在感を増していくのではないだろうか。
坂東祐大とSTUTSの融合で生まれた傑作
STUTS & 松たか子 with 3exes - Presence I feat. KID FRESINO (Official Music Video)
STUTSがサウンドプロデュースしたこの曲は、サンプリングしたフレーズのループが元になっている。元ネタは坂東祐大の劇伴「大豆田とわ子と三人の元夫」
「大豆田とわ子と三人の元夫」
STUTSが自らの制作現場を公開。サンプリングしたフレーズを構築する貴重な過程が見られる。
ワンフレーズや、ひとかたまりの和音に命が吹きこまれる作業。(こういった裏方仕事を見られるのは元DTMerとして、とてもワクワクする)。
この曲でも冒頭から「丸サコード進行」、サビのメロディーには「ペンタトニックスケール」が使われている。
この2つ、STUTSが意識的に選んで使ったかどうかは、わからない。だが研究熱心な彼が、この2つのエッセンスを知らないわけはないと思う。キャッチーなフレーズがループされるこの曲は、ドラマのヒットと同様に多くの人の印象に残っているはずだ。
J-POP界のトップランナー 米津玄師と現代クラシック界の鬼才 坂東祐大
「大豆田とわ子と三人の元夫」の劇伴を作曲した坂東祐大は、藝大出身で現代音楽の作曲家でもある。米津玄師との共同アレンジでも広く知られている。
米津玄師-Pale Blue
坂東祐大と米津玄師の共同アレンジ「PaleBlue」は、ドラマ「リコカツ」のタイアップ曲。米津が「久しぶりに作った」というラブソングだ。ピアノやハープシコード、ストリングスを使ったオーケストレーション、クラシカルなアレンジは華やか。ドラマティックな展開で、聴く人の胸を揺さぶった。
曲の終盤に4拍子から6/8拍子になるところがある。高鳴る鼓動のようなティンパニの音色は拍子が変わることで恋に堕ちた途端、つぶさに景色が変わる瞬間を表現しているかのようだ。
深海に潜るような米津の音楽。「海の幽霊」のアレンジでも感じたが、坂東がクラシックのエッセンスを加味することで、ラフマニノフのコンチェルトのような、より抒情的でドラマティックな仕上がりになっていると感じる。
J-POP界のトップランナー米津玄師は、常に市場を先読みし、高いクオリティで楽曲と話題を提供し続ける。アーティストにとって自らの表現したいものと、求められるものの両立は、難しいことも多いだろう。
だが、彼は何事もバランスを取るのが実に巧みだ。自分を俯瞰(ふかん)し、要求と欲求を両立させるプロ意識の高さは、他の追随を許さない。
クラシックの作曲法を学び、ジャズやPOPSなど多岐に渡る音楽に精通する坂東祐大と米津玄師。互いに刺激や影響を受けあうことで、今後も良きパートナーとなっていくとみている。これは同じくクラシックの作曲法を学んだYaffleと藤井風のタッグも同じ。二組の化学反応はとても興味深い。
坂東祐大がセレクトした珠玉の名曲集。
どの曲も音楽好きのツボをくすぐるセレクト。中でも特に耳に残ったのが、今っぽさを感じるHONNE「I Might」だ。
HONNE - I Might
ユニット名が「ホンネ」、自主レーベル名が「タテマエ・レコーディング」というロンドンの2人組。トラックに使われている音色はエレクトロでスタイリッシュなのに、どこかしら懐かしさも。メロウなチル系の今っぽい時代感が漂うサウンド。
そして、この曲にも「丸サ進行」に近いコード進行(バリエーション)と「ペンタトニックスケール」が使われている。
歌詞には冒頭から「トーキョー」「シブヤ」というワードが出てくる。ちなみに、この曲の入ったアルバムタイトルは「LOVE ME/LOVE ME NOT(本音/建前)」というのも、なかなかの日本通だ。◑ / ◐マークで陽/陰を表現、極東のトーキョーで再生を願う歌詞は、ところどころ禅問答のようでもある。
ペンタトニックスケールは、流れるようなメロディーラインと多重コーラスに使われている。歌詞のせいかもしれないが、ゆったりと流れるようなメロディラインに、どこか諦観と静寂さえ感じる。
2人は親日家ということだが、東洋の香りのするペンタトニックスケールが醸し出す独特の浮遊感が、このサウンドの核となっているように感じる。
「音楽を”消費する”という考え方があまり好きじゃない」という坂東。HONNE「I Might」は、彼の理想を体現している楽曲のひとつではないだろうか。
最近、注目しているキタニタツヤの「白無垢」
この曲にも「丸サ進行」と「ペンタトニックスケール」が使われている。最初に「白無垢」を聴いた時、すぐにジャミロクワイ「Virtual Insanity」を思い出した。
ジャジーなピアノのバッキングと、ファンキーでグルーヴ感のあるベースがおしゃれ。クールで洗練されたサウンドだ。キタニはベーシストでもあるが、この曲はボカロPの打ち込みサウンドというより、どこか90年代のアシッドジャズを彷彿とさせる。
この曲の歌詞は中原中也の「生い立ちの詩」が元になっているという。文学的で小説のよう。MVの映像も美しい。
「白無垢」の原曲は、なんとこちら。ボサノバっぽいアレンジでギターの音色と硬質な女性ボーカルが涼し気なイメージ。キタニタツヤと小林私は声域と声質が近いように感じる。(”がなり声”が特徴の小林より、キタニのほうが少し軽い声質)
「サッポロ黒ラベルの歌」
ボカロPだったキタニとギターの弾き語り中心の小林とでは、オリジナル楽曲の雰囲気は違う。だが、美学を学んだキタニと油画専攻だった小林。芸術的素養や美的感覚といった面では相通じるものがあるのではないだろうか。この2人が構築している歌詞の世界は独特でとても興味深い。
「白無垢」ライブバージョン
ピアノの音色に、イントロから惹きつけられる。
プレイヤーはキタニタツヤのサウンドに欠かせない鍵盤奏者・作編曲家・サウンドプロデューサーの平畑徹也。ジャジーでアツいピアノから耳が離せなくなった。アウトロなんてもっと聴いていたいと思うほどだ。
最初に「白無垢」を聴いた時に、とっさに思い出したジャミロクワイ「Virtual Insanity」。この曲も「丸サ進行」を使っている。 ピアノとベースのコンビネーションが生み出すグルーヴが「白無垢」と似ている。今聴いても、一切の無駄がない洗練されたサウンド。時代の経過を感じない。
ジャミロクワイ「Virtual Insanity」
藤井風のアレンジャーYaffleも注目する「新東京」
新東京「CyninalCity」
関ジャムで知ったギターレスバンド新東京。藤井風のサウンドプロデュースとアレンジを担当するYaffleが紹介。一聴してハマった。
エレピのジャジーなコードワークと、何よりベースのグルーヴ感がたまらない。ジャコ・パストリアスやマーカス・ミラーなど、名ベーシストのフレージングを彷彿(ほうふつ)とさせる。今の日本人でいうなら亀田誠治だろうか。
冒頭からテンションコードが散りばめられ、安易に読めない和声展開に、一体どこへ向かうのかと耳を研ぎ澄ます。
サビになると一転、一気にPOPでキャッチーな世界へといざなわれる。ここでも「丸サ進行」と「ペンタトニックスケール」を使ったフレーズが登場するのだ。
間奏のエレピソロとベースの掛け合い部分からサビ~大サビにかけてがすごい。かつてジャコパスもメンバーだったエレクトリック・ジャズ・フュージョンバンドのウェザーリポートかハービー・ハンコック・トリオかと思うほどのドライブ感だ。
とにかくコードを奏でているのがエレピだけなのに、音の厚みと奥行きがすごい。これは音と音の合間を縫うように埋め尽くすベースラインに秘密がありそうだ。
冒頭で「無機質なこのコードとずれかけたテンポ」と歌っている。退廃的な香りのする歌詞には、太宰治のような文学性も感じる。
MVでは、メンバー全員が全身白タイツのコスチュームに身を包んでいる。とんでもなくクールなサウンドなのに、不可思議な衣装で表情もよく見えない。その不気味さにかえって興味をかきたてられてしまう。いま、ライブで聴いてみたいバンドのひとつ。
古くから使われてきたペンタトニックスケール
人の琴線に触れるペンタトニックスケールは坂本九「上を向いて歩こう」など歌謡曲にも多く使われている。
どこか郷愁をかき立てるこの音階は、日本人初のアカデミー作曲賞を受賞した坂本龍一もよく使っていた。洋の東西を問わず、良質のポップスには必ず使われている、と言っても過言ではない。
いま、日本のシティポップがアジア圏をはじめ、海外でもブームになっているという。80‐90年代のエッセンスを取り入れ、新しいサウンドへ昇華する音楽スタイルには、時代が巡るのを感じる。上に上げた楽曲の共通点を並べると
となった。
しかし、どの曲にも共通するのは「コード進行」「メロディーの美しさ」「ベースライン」と「リズムトラック」のコンビネーションなど、バランスの良さ。これらは自分の好みに欠かせない条件なのではないかと感じている。
あと、圧倒的に感じるのは
「キーボーディスト」(ピアノ奏者)が作った楽曲が好きだ。
制作場面を見たことがなくても、鍵盤奏者が作った曲は雰囲気でなんとなくわかる。コードの積み方や、手くせのようなものが伝わるのだろう。
トライアドコードが中心の明快なロックやPOPSもカッコいいが、やはりジャジーな響きに引き寄せられてしまう。これは近現代クラシックをベースに、ジャズ、ブラックミュージックに親しんできたからなのかもしれない。このあたり、他の鍵盤愛好家のかたはどうなのだろうか。
最後に
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