お腹と好奇心を満たしてくれる名店【福井6月旅】
福井県「地域ものがたるアンバサダー」として、6月から半年間にわたって福井県内をあちこち巡ることになりました。今回、第1回目の訪問先は、「松寿司総本店」さんです!
福井には家族旅行などでたびたび訪れているんですが、まだまだ知らないことばかりでした。そんな驚きの連続となったタビアト・レポートです。
❖ 固定観念に囚われていた私・・・
カウンターに座ると、目の前に大きな一枚板が。立派なケヤキの富士山です。「回らない」お寿司屋(=カウンター寿司屋)さんといえば、メニューやお品書きにも値段がはっきり書いていない「時価」モノで、静かな店内に一切喋らず黙々と寿司を握る大将、写真を撮るのもはばかられる、そんなイメージを持っていました。
でも、お店に入って10分も経つか経たないかのうちに、私の中でカウンター寿司屋さんの印象が、すっかり変わり始めていました。
― 私の勝手な思い込みは、まったくの杞憂に終わりました ―
❖ 先代からのお店を受け継ぐ
今回取材させていただいたのは、福井駅から北に歩いて10分ほどの場所にある、松寿司 総本店さんです。先代(お父様)が、大阪市阿倍野区文の里(ふみのさと)で「松寿司」をのれん分けで開業したあと、1960(昭和35)年に福井に戻って寿司店を開きました。息子の池田敏浩さんも、高校を卒業してすぐに調理師の専門学校で学んだ後、大阪で5~6年修業を積んで福井に戻り、2代目としてお店を継いでいらっしゃいます。
少しはにかみながら発せられたお言葉は、多分に謙遜を含んでいましたが、そこに寿司職人としての矜持が垣間見えた気がしました。
❖ コロナ禍の逆風にもめげず
さて、冒頭にあった私の固定概念が崩れた出来事とは、カウンター寿司店からは想像できない、解放的な雰囲気でした。通常、こういうお店の客層は年配層が多いと思うのですが、松寿司総本店さんでは若いお客さんも増えつつあるようです。若者を惹きつけるこの解放感は、大将・池田さんの進取の気性にあります。Instagram や Twitter、Youtube、TIK TOKなど、あらゆるSNSを駆使して、若者のカルチャーと寿司屋との掛け合わせを楽しんでいるのです。SNSによる発信は、コロナ禍の前から始めていたそうですが、コロナ禍でいろいろ勉強する時間ができたことも、スキル向上のきっかけに。
とはいえ、この2年余りの間、全国各地でコロナ禍の影響を受けたように、松寿司総本店さんでも厳しい状況に直面していたことは、想像に難くありません。でもそんな時、常連さんが「潰れては困るから・・・」と食べに来てくれたり、インスタや Facebook、メニューなどを見ておいしそうだったんで・・・と新しいお客さんが来店してくれました。池田さんのブログには、お客さんのこうした温かい支援があったこと、そしてお客さんへの熱い感謝の気持ちがつづられています。
若い人たちにも福井のお寿司を知ってもらいたい、との思いは動画配信にも表れています。あいにく取材時は、底曳き網漁の解禁(9月)前だったので、福井産のネタはやや少なくて冷蔵ケースの3分の1ほど。でも、その日に入荷した生ウニ、赤貝、太刀魚、そして黒アワビの解禁など、季節ごとに新鮮な食材をさまざまな音楽に合わせてショート動画で紹介しています。
こんな日々の地道な発信が、思わぬ反響を呼んでいます。有名ミュージシャンのコンサートを観に、鯖江市や福井市を訪れた来訪客が、翌日観光したあとに食事をしにやってくるそうです。また、日本一周一人旅をしている「福井弁ユーチューバー」、ともだりこさんの動画企画にも参加しています。ともださんが食事をする動画配信で、松寿司総本店さんが撮影協力したのですが、彼女が美味しそうにカニやお寿司を頬張る様子が、若者たちのハートをキャッチ。後日、「動画見たよ!」とやってくるお客さんが増えたそうです。
と、とってもクールなお言葉。
この飾らないお人柄が、グルメサイトのレビューで「居心地がよい」「アットホーム」と評されるゆえんだと思います。
❖ 「脂」と「旨味」の関係
回転寿司にはないカウンター寿司のよさ。それは、カウンターを挟んで大将とお客が会話を楽しめる「距離感」にあります。
池田さんが最後に出してくださったのは、3貫の細巻。下の2貫はよく見かける具のようですが・・・
実はこの「へしこ」、松寿司総本家さんの自家製!!一度に70~80本のサバを使い、最低でも1年は漬け込むんだそう。
話を聞くだけでも、たいへん手間のかかる作業だとわかります。一度にこれだけたくさん漬けるのは、1本や2本では塩漬けした時にサバから滲み出るエキス(干潮:ひしお)が少なく、糠と混ぜられないから。
かつて福井では、地元産のサバをへしこに用いていましたが、漁獲高が減っていることや、より脂の乗りが良いということで、ノルウェー産のサバがよく使われるそうです。池田さんによると、へしこで有名な敦賀市の日向(ひるが)地区でも、国産とノルウェー産両方のへしこを作っています。その理由は、ノルウェー産は漁獲量の管理がしっかりしていて、品質が安定しているから。
「身に脂が少ないと、へしこが堅くなっちゃうんです。」と池田さん。
「脂のノリが旨味と食感に関係している?!
へしこって奥が深いんだなぁ・・・」
私の興味は尽きません・・・。
❖ 福井の食材への愛があふれる
池田さんのお話も、さらに続きます。「日本三大珍味」と言われ、100gが12,000円もする「塩ウニ」。でも、スーパーで売られるほど、地元の人々にとっての「ソウルフード」。昔は福井でもウニがたくさん獲れましたが、最近は温暖化の影響もあって、ほとんどが韓国産や山陰産に。
焙って手で揉んだ板わかめを瓶詰にした「もみわかめ」も、福井の代表的な食材で、今がシーズン。一升瓶で5,000円とお高めですが、お土産屋さんではお手頃サイズがあり、ご飯の上にふりかけて食べると美味しいらしい。
これは、ぜひ押さえておかねば!と、今回の旅の終わりにゲット。そのまま少しつまむと、口中に磯の香りが広がるとともに、適度な塩気が何ともいえない!お話のとおり、ふりかけにバッチリです。
お話は多岐にわたって、あっという間の1時間でした。
いろんな食材の背景をうかがいながらいただくお寿司は、いつもと味わいが違いました。細かな気配りに加え、店内では「映える」写真も撮れるお寿司屋さん。こんなスタイルのカウンター寿司屋さんは稀有な存在ですし、思わぬところに新しい時代の息吹を感じました。
今回の旅は、お腹と好奇心をともに満たしてくれる、素敵なお寿司屋さんとの出会いでした。
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