トマトのように色づく関係
またしても周回遅れで、ドラマ版『ばらかもん』を観ている。
コミックを読んだのはもうずっと前で、ストーリーの記憶はまだらだ。
主人公が、島の人たちから各々の畑で穫れたピーマンやトマトをお裾分けしてもらうシーンがあって、わたしも野菜をまた育てたいなあ…と、ふと思う。
うちの母は植物を育てるのがうまい。
実家に帰ると、冬をのぞけばいつもなにかしら花が咲いている。
わたしは植物にくわしくないので、チューリップやバラ、紫陽花、スイセン、パンジーといった誰でも知っているようなものしか知らない。
そしてうちの実家では、わたしの知らない花ばかりが、しかし毎年きちんと花を咲かせている。
母は花を育てるのが好きで、野菜を育てているところはほとんどみたことがない。だけどわたしが子どものころ、数年だけトマトを栽培していた時期がある。
でもね。
毎年、真っ赤になったその果実は、スズメだか猫だかに食われてしまって、たった数メートル先にあるうちの食卓になかなか並ぶことはなかった。
「今年こそ、食われない!」と鼻息荒くしてあれこれ策を講じていたらしいが、動物たちのほうが一枚も二枚も上手だった。
∽∽∽
数年前、わたしもミニトマトを育てたことがある。
友人へのプレゼントを買いに立ち寄った雑貨屋さんで、たまたま目に留まったミニトマト栽培キットに興味を持ち、育ててみることにしたのだ。
わたしのようなズボラな人間でもなんとか実をつけてくれた。
日当たりがよくなかったのか赤みは薄く、さくらんぼぐらいの小ささだった。母がいっていたような鳥や猫に食われるといった心配も杞憂に終わった。
すべて収穫してもサラダ1食分でちょうどよいぐらいの量だったため、それはそれは夫と2人でありがたくいただくことにした。
正直にいって、おいしくはなかった。
自分で育てたという3割補正がかかったとしても、お世辞にもおいしいとはいえなかった。
甘みはないし、そもそも味が薄い。
あらためてスーパーにならぶようなトマトを育てている農家の方々のすごさを思い知った。
そして、うちのトマトはおいしくないから鳥も猫も寄りつかなかったんだろうと察した。
そう思うと、うちの母が育てたトマトはきっとおいしかったんだろう。
∽∽∽
えてしてうちの母親はとにかく愛情深い人だ。
花にもトマトにも、我々子どもたちにも。
ときにその愛情は、わたしたちからみれば捻じれていたし歪んでいて、正直苦しんだ時期もある。実家を離れた今でさえ、母からのLINEをみて「うっ」と感じるときもある。
わたしは植物ではないから、母からみればトマトや花のようにはうまく育たなかったかもしれないね。
数字だけみればいい年になった自分も、まだまだ子どもだ。
今の自分を子どもだというのなら、実家を出たころの自分はクソガキだっただろう。
年に数回しか顔を合わせなくなったぶん、一緒に過ごす時間の密度は数百倍にも濃くなった。
親と一緒に出かけることなんてほとんどなかったのに、映画や動物園、実家に帰ると必ず食べに行くカレー屋さん。ボディビルの大会も一緒に行ったことがある。
わたしがフリーランスになってからは、1週間2週間、1ヵ月と長期で実家に滞在できるようにもなった。
クソガキではなくなったわたしは、母の話にもすこし耳を傾けられるようになった。
母とのちょっといびつだった関係は、夏のトマトのように、これから色づいていくんだと信じたい。
今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたが育てたことのある植物はなんですか?