たしかな安全地帯にいるとき『神さまのビオトープ/凪良ゆう』
いまこの瞬間だけはたしかに安全な場所にいる、と確信できる物語がある。
私にとってそれは凪良ゆう先生の書く小説がそれにあたる。
凪良先生の小説は、やさしい。
とりわけ自分みたいな世の中のメインストリームから外れた人間にとってはヒリヒリするほどやさしい。
凪良先生の小説には正しさから外れた、もしくは外れてしまうような秘密を抱える人たちが登場する。
そういう人たちが正しさから外れていない人たちから向けられる言葉や意思表示に傷ついたり、怒ったり、泣いたりしながらも、それらを飲み下して自分たちだけの正しさを大切にしながら生きていく話を書いてくれる。
自分もいまの世の中のスタンダートというかオーソドックスなものとして存在するルールや概念が息苦しい。
そのなかで楽に呼吸できる人間であったなら、と何度でも思う。
それでもなんとか日常はこなせるのだけど、時々無性に悲しくなってなんでなんだろうと思う夜がある。
凪良先生の小説はそんな私をそっと包み、頭を撫でてくれる。
小説の内容やそこに描かれる人物は、もしかしたら苛烈なのかもしれない。
でも私にとっては毛布みたいにやわらかでやさしい温かさがある。
自分のこの歪さが、凪良先生の作品を読んでいるときだけは愛おしく思える。
いま、このときだけは自分はこの物語に理解してもらえると感じる。
この物語に出会えたことが嬉しくて泣けてきてしまうのだ。
友達でも恩師でも恋人でも家族だけでもなく、本こそが、物語こそが自分の味方で最大の理解者だと思わせてくれる。
これこそが読書の、物語の醍醐味だと思う。
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