ミステリードラマはお好き?(続)ー”The OUTFIT”(アウトフィット)
(タイトル写真はvoid.pictures から転載)
久々に見た秀逸なミステリードラマだった。主人公レオナルドの紳士服仕立屋で繰り広げられた殺人事件の一部始終のお話である。
舞台はこの仕立屋内の一場面だけ。
おっと、仕立屋と言ってはいけない。レオナルドに言わせると、彼は「仕立屋=縫製師」(Tailor)ではなく「裁断師」(Cutter)である。「仕立屋は針と糸があれば15分で縫える」が、「自分はロンドンのサヴィル・ロウで、何十年も修行した裁断師である」と。レオナルドはCutterという仕事にプライドを持った、物静かな老紳士然とした人物である。
(豆知識)
「イギリスでは、採寸、型紙、裁断、仮縫いまではCutterの仕事。縫製はTailor の仕事と分けられているそうである。このサヴィル・ロウ(Savile Row)はロンドンの中心部にあって、高級紳士服店が集中している所だそうだ」
何故こんなにも言葉にこだわるのか。それはこのドラマのタイトルに隠されている。Outfit(アウトフィット)には「洋服」という意味と「かつてアル・カポネが率いていたマフィアの名前(実在した)」という2つの意味がかけられている。
イギリスからシカゴにやってきたレオナルドの最初の客がこのアウトフィットというマフィア組織のボスだったことから、店を彼らの情報交換場所として利用されるようになる。彼がシカゴに来た理由は「ジェームス・ディーンのブルージーンズ」のせいで商売が上がったりになったからだと言っているが、訳がありそうである。
マフィアにいいようにされても彼は黙々と洋服作りに励む。まるでスーツが完成するまでのドキュメンタリー映画のように詳細に描かれる。(写真はNetflix から転載)
これらの映像からは殺人劇だとは想像できないほど、静かに時が流れる。レオナルドの語り口は、あくまで謙虚で穏やかである。シブくていい味を出す俳優である。私の好きなマイケル・キッチンのよう。
このマフィア組織には、敵対するもう一つの組織がいる。ある時、組織内に裏切り者がいてもう一つの組織に密告しようとしているという話が浮上する。証拠のカセットテープが出てくる。やがてそれぞれが疑心暗鬼になって行き、殺し合いにまで発展する。
自分の店で働く女性店員の力を借りてレオナルドは言葉だけで、このアウトフィットをもう1つの敵対組織に壊滅させ、その組織もFBIに捕縛されることになるだろうということで終わる。
この女性店員は、この全ての筋書きを企てたのがレオナルドだったことを理解する。彼と彼女の間にはどこか父と娘のような心の触れ合いがあったが、それぞれ別の道を行くことに。
最後に彼の過去が明かされてビックリ。彼はこのドラマの中で作っていた上着を着て、何事もなかったように2度目のやり直しのためにその場を立ち去るのである。