今日思い出した旅152ー記憶に埋もれていたソウルの一夜
1980年5月私とイーオットは確かに韓国の地に降り立った。
タンザニアでの2年の任期を終えて、エジプト、ギリシャ、ポルトガル、スペインなどヨーロッパで1ヶ月半近く遊び歩いて懐も寂しくなった頃、一番安い飛行機で帰国することにした。ロンドンからスイスまで飛び、そこから大韓航空機でソウル経由東京の旅程だった。その頃トランジットの宿泊代は航空会社持ちだった。いい時代だった。
ずっと安宿泊まりだっただけに、ソウルではロッテホテルに一泊と聞いてうれしかった。
飛行機は金浦空港に降り立ち我々一行はホテルのリムジンバスに乗り込んだ。ガイドらしき人がマイクを持ち話し出した。
「私たちの国は、以前日本に侵略されました」
これが開口一番に放たれた言葉だった。ウキウキした気分はすっかり消え失せた。その後も話は続いていたのだろうが、記憶にない。なんだか複雑な気分でホテルに入ると、部屋から一切出てはいけないと告げられた。部屋に入って事情が薄々分かってきた。クーデターが起きていたのだ。
ホテルの窓から外をのぞくと銃を持った兵士があちこちに立っていた。それが光州事件だったのだ。外出のお楽しみがなくなり、仕方なくルームサービスで握り寿司を頼んで食べた。
翌朝早く日本行きの飛行機に乗り2年ぶりに日本の地を踏んだ。今思い出しても物々しい雰囲気で暗い思い出として記憶している。光州事件は1980年5月に起きたのだ。それ以来この地を踏めていない。
(写真はJIJI.COMより転載)