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独立して初めての仕事 〈お客さんからかけられた刺さる言葉〉
「お兄ちゃん、不安で〜とかお客さんの前で言ったらいかんよ。プロなんやから自信もって大丈夫です!って言わな。」
この言葉、僕が独立して初めて張り替えの仕事をさせてもらったお客さんからかけられた大事な言葉。
どうやって仕事をもらうのか分からない。
独立してからまずぶち当たった壁。
仕事ってどうやってもらうんだろう?
これまでは、今日はこれやってと仕事を振られ、それをこなすということが当たり前でした。
独立するとそうは行きませんよね。
そんなの当たり前です。
そんな当たり前に気づいたのが独立してからという恥ずかしいお話。
一番初めに思いついたのは、関係ありそうな企業やお店に営業をかけることでした。
石川県内の工務店やリフォーム会社、家具屋さんなど検索して連絡。アポを取って自分で作った名刺と事例集を持って直接売り込みに行きました。
どこもあまり手応えのある印象はありません。
(初めての営業で、何を伝えて何を売りたいかはっきりしてなかったから当然ですよね。今になると荒すぎて恥ずかしいです。)
その後、地域のフリーペーパーに載せてみないかと紹介を受け、新規オープンのページに無料で掲載してもらえました。
驚いたことに、掲載をしてそんなに時間を待たずに問い合わせの連絡が入り、初めての打ち合わせに行くことになったんです。
初めての打ち合わせ
何を持っていけばいいかな?
何をヒヤリングすればいいんだろう?
できそうにないものだったらどうしよう?
問い合わせが来た嬉しさもありましたが、緊張と不安でいっぱいでした。
でもやるしかないと自分なりに準備をしてお客さんの自宅に向かいます。
自宅に着いてインターホンを押す。
(ドキドキが半端なかったことを覚えています。)
問い合わせをくれたのは50代後半くらいの男の人でした。
明るい感じで迎え入れてくれ、張り替えを考えているソファのついて色々と話をしてくれました。
僕も実物を見ながら、どうやってやれるか頭をフル回転させてながらとりあえず聞きたいことを聞いてメモを取ります。お客さんもよく話しかけてくれる方だったので、こちらも話を出しやすくてホッとしたのを覚えています。
張り替えができそうであること、まず見積もりを出してそれを確認していただいてから返事をもらう旨を伝えてその場を出ました。
戻ってきて、撮影してきたソファの写真とメモした寸法や要望を見返しながら見積もりの作成を始めるんですが、まだ金額もこれといって確定させているわけでもなく、どうやって見積もりを出そうかと悩みます。
まずは自分の時給を決めて、それを元に自分の人件費を決めようと色々計算し人件費を出し、材料費を出し、項目を分けて見積書を作りました。
(正直これでいいのかなと確証を持てないままでしたが、何にいくらかかるのか分かるように最低限書いたものでした。)
初めての受注
印刷した見積書を郵送してしばらく経った頃に、電話がかかってきました。
「見積もりありがとう、これでお願いするわ。」
初めての受注でした。
ありがとうございます!
思わず大きな声で返事をし、引き取りについて日時調整をして電話を切りました。
嬉しい気持ちが込み上げる中、同時に仕事が決まったという責任が大きくなってくる感覚も感じました。
ソファを引き取りに行く際、まだ車も自前のもの(ソファのような大きな家具を運べる車)がなかったので親戚に軽トラックを借りて向かいました。
搬出も一人で向かったので、お客さんに手伝ってもらうスタイル。
申し訳ない気持ちでしたが、お客さんは快く手伝ってくれました。
(これまで搬出搬入をお客さんに手伝ってもらうスタイルが多々あありますが、みなさん率先して手伝ってくれます。本当に感謝です。一人ですみません。)
「じゃあ、お願いね。」
その言葉を受けて、より依頼された事実を実感して工房に戻りました。
初めてがソファの張り替え
今更ですが、初めての依頼がソファの張り替え。
修行時代は、初めましてのものでも相談ができる師匠がいたのでそこまで不安になることはありませんでした。
ですが今は一人です。
今までやってきたことを思い返し、ここはこの方法で直せそうだ、この順番でやればやりやすそうだ、型取りはこうしようなどイメージを作りながら作業を始めます。
椅子やソファの張り替えというのは、基本的に同じものを取り扱うことは少ないです。似たようなものはありますが、作りも状態もさまざまです。ものに合わせてやり方を考える必要があるので毎回この脳内シミュレーションから入ります。
思いの外スムーズに作業は進めることができて、予定通り張り替えは完了しました。
完了報告と納品、そして印象的な言葉
張り替えが終わったことを伝える連絡をするのですが、電話をかけるのにもドキドキ。(この癖は今でも変わりません。単に人見知りだからかもしれません。)
勇気を出して?電話をかけ、納品する日程も決めてソファを積んで自宅に向かいました。
ソワソワ
運転中、この仕上がりで大丈夫だったか、要望通りできているか、持って行った時にどんな反応をされるか・・・。
そんなマイナスの妄想で頭はいっぱいでした。
あっという間に自宅に到着し、またインターホンを押します。
お客さんが張り替えられたソファを見て一言。
「おぉ新品みたいやん!」
一気にあったかい血が身体中を流れて体温が戻ってきたようなホッと感を味わいました。
二人で張り替えたソファを見ながら、張り替えた過程や仕様について色々と説明し、お客さんの質問に答えていました。
支払いもしていただき、会話も終わりかけた時、
「初めての張り替えの依頼を頂けて嬉しかったです。張り替えしている時も持ってくる時も、大丈夫かなって不安でいっぱいで。」
と何気なく話したところ、
「お兄ちゃん、不安で〜とかお客さんの前で言ったらいかんよ。プロなんやから自信もって大丈夫です!って言わな。お客さんも不安になっちゃうし、大丈夫ですって言われたら安心するやん。」
僕はハッとさせられました。
自分の立場と自分の発する言葉でお客さんがどんな印象を持つのか全く考えられていませんでした。不安に思わない仕事をすることとそれを伝えることの重要性を意識させられました。これからのことを思ってかけてくれた言葉でした。
初めての仕事でこんな気づきをもらえたことは今でも忘れられません。
何かあるとふと思い出す出来事です。
「新しい人を応援したいんや。頑張ってな。」
別れ際にそう言ってくれたお客さん。
片手に持っていた缶チューハイが印象的でした。
最後までご覧いただきありがとうございました。