
【詩】∞倍返し
物凄いスピードで向かってきた、刃のような黒い悪口は
私の心臓をチクチクとしつこい程、刺した
目を閉じて、これ見よがしに吐いてきた大げさな溜息は
私の魂の隅々を震え上がらせた
相手が撒き散らした悪口、暴言に対抗するため
キュッと嚙み締めた唇を開こうとした
なのに いざという時に限って 言葉が出てこない
∞倍返しの応酬を食らわせてやろうと そう思っていたのに
相手が先に50の悪意をぶつけてきた
だったら、私は100の恨みを投げてやる
そうすることも、できたはず
でも、私の顔面には苦しみ恐怖と怒りと悲しみが
それぞれ25%ずつ ピッタリと貼り付いているだけ
ただ、震える捨て猫みたいに俯き 痛みに耐えるだけ
誰かの投げた石が付けた傷に対して
∞倍の大きさの岩を打ちつける衝動をどうにか堪える
誰かの虚言が作った取り返しのつかない裏切りに対して
∞倍の噂話を吹聴したくなる心情を何とか押さえつける
私はまるで唖者のように口をつぐんで
ひび割れた影法師の隣で 立ち尽くしている
吐かれた言の葉は元には戻せない
相手の頬を打った手のひらにも鈍い痛みが残るだけ
それならいっそのこと 沈黙を貫き通せばいい
蘆薈(ろかい)の棘は 誰の耳にも届かぬ悲痛な声を上げている