第133回:「美味しい」があるから毎日頑張れるを実感する1冊(高山ちあき:藤丸物産のごはん話)
こんにちは、あみのです!
今回の本は、高山ちあきさんのライト文芸作品『藤丸物産のごはん話』(集英社オレンジ文庫)です。表紙の天丼のイラストが美味しそうだったので読んでみました。
この作品は、社員食堂のメニューに隠された思い出を巡る物語であり、主人公の人探しを描いたラブコメにもなっています。社員食堂のメニューをテーマにした作品というのがとても個性的だなと思いました。
美味しいご飯があるから1日を乗り切ることができる!そんなパワーを感じられる1冊です。
あらすじ
感想
今作は大企業の社員食堂が舞台となっていて、藤丸物産で働く社員と社食のメニューに関する騒動や思い出が描かれます。
「食」をテーマにした作品で私は料理と人々の温かな思い出が描かれるところが好きなのですが、今作は思い出でも「恋愛」が絡んだ思い出がよく描かれていた印象を受けました。
杏子が勤務する藤丸物産の社食は日々幅広い世代の社員が利用し、ひとつひとつのメニューに誰かの思い出が詰まっています。
失恋した時のことを思い出してしまうため、照り焼きチキンが食べれなくなった女性社員、今はメニューからなくなったナポリタンを定年前にもう一度食べたいと願う男性社員など、杏子と社食で働く仲間はリクエストに応えながら社員たちが前に進むための料理を作ります。
杏子たちがメニューに隠された思い出を紐解いていく様子は、ちょっとした謎解きのようで楽しく読むことができました。
叶わない恋のような辛い思い出が隠されていたメニューもありましたが、辛い出来事を美味しいものを食べて乗り越えて、次に進んでいくというストーリーがとても素敵だなと思いました。
また他にも印象的だったのが、杏子と渚の関係の描かれ方です。
杏子は年下なのに自分のことをこき使う渚に苦手意識がありましたが、ふとしたきっかけで職場では見えない彼の意外な努力を知ったことによって、杏子の中にあった渚への印象は少しずつ変わっていきます。
中でもナポリタンの味を研究するため木更津に訪れた時のことは、2人の距離をグッと近づけた出来事でもあったと思います。
物語は杏子と渚がいい感じになるところで終わるのですが、個人的には渚の壮絶な過去を知ったことを踏まえて、2人がこの先どんな関係になっていくのかが見てみたいな…と思いました。
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大好きな人と食べたもの・作ったものは特別な思い出に変わる。
美味しいものを食べることによって辛い過去を乗り越えたり、過去の楽しい思い出を振り返ったりと人それぞれの温かな「食」の思い出を感じることができた作品でした。