第129回:猫にも人間にもそれぞれに合った生き方がある。(ドリアン助川:新宿の猫)
こんにちは、あみのです。
今回の本は、ドリアン助川さんの『新宿の猫』(ポプラ文庫)という作品です。私が今作を手にしたきっかけは、下記のような帯の言葉が心に刺さったからでした。
これは私の心の薬になる物語かもしれない。購入して読んでみるとその予感は大当たりでした。
今作には「生きづらさ」を抱えた人物がたくさん登場します。彼らの生きづらさを新宿の街で生きる猫たちと重ねたこの物語は、読んでポジティブな気持ちになれました。いろんな生き方があっていいことがわかる物語だと思います。
また後半は「詩」が物語のカギとなっていて、登場人物たちが書いた詩も作中ではよく登場します。言葉で作者が持っている世界を知ることができる詩の魅力に出会える1冊でもありました。
あらすじ
感想
色弱で就職先の幅は狭まったものの、夢だった映像の世界で地道な努力を続ける主人公の「山ちゃん」。
構成作家の師匠との番組作りに微力ながら協力する毎日ですが、想像以上に厳しい仕事内容に対し、彼は次第にやる気を喪失していきます…。
そんな中で新宿の街を彷徨っていた彼は、「花梨花」(「かりんばな」でも「かりんか」でも好きなように読んでください)という飲食店を見つけます。花梨花にはお店で美味しい料理をふるまう夢ちゃんをはじめ、様々な職業・生き方の人が集まっていました。
この店の風景は「新宿」という街のカオスさをデフォルメしたような、あるいは「生きづらさ」を抱えた人たちのひとつの居場所のように見えました。
花梨花に集まる個性的な人たちやお店に気ままに現れる猫たちとの出会いを通して山ちゃんは、今の仕事が本当に向いているのか見直し始めます。
中でも夢ちゃんは、山ちゃんの人生の選択において必要な存在だったと思います。夢ちゃんとの交流を続けていくうちに山ちゃんは、彼女との会話をきっかけに「詩」という新たな世界への扉を開きます。
詩の面白さを知った山ちゃんは、映像の世界にいた頃以上に生き生きとした自分に成長しているように見えました。
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作中にて「金のあじさい、銀のあじさい」という詩が登場します。この詩には、山ちゃんが子どもの頃にあじさいの絵を描いた際、色弱の自分にしか見えない世界を周りに理解してもらえなかった時の悔しさが込められていました。
子どもの頃は嫌な思い出だったけど、大人になってから言葉で当時を振り返ったことで今だからわかる自分の「個性」に気付くことができたし、読んだ私としては自分には見ることができない彼が普段目にしている世界を知ることができる凄く素敵な詩だと思いました。
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新宿の街で生きる猫たちのように、私たちも見えている世界は人それぞれ違うし、見えている世界によって自分に合った生き方も変わることを強く実感した良作でした。
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